SiO2Etching6 の変更点


#author("2020-12-03T10:15:26+09:00","default:ishikawa","ishikawa")
[[Memorandum]]
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[[SiO2Etch]]

*結論

**5.1 本研究の結論

 半導体素子製造の発展を牽引してきた微細加工技術の重要な要素であるプラズマエッチングについて調べてきた.今日の半導体素子製造では,まさに分子・原子レベルの素子寸法をもって加工されており,使用する材料の特性を多様に活かす形となっている.このプラズマエッチングでは,構造寸法の分子・原子レベルでの加工制御に加え,材料の電気的,機械的といった様々な物性の制御にまで重要性が増している.この背景を踏まえて,筆者はプラズマエッチングプロセスにおける表面反応の理解を課題として,その解明をおこなってきた.

 半導体素子のなかで絶縁膜として使われるシリコン酸化膜の加工には,フルオロカーボンプラズマを用いたエッチングが用いられている.このエッチング方法では,シリコン酸化膜を化学選択的にエッチングできる.また,イオンを用いた反応で孔や溝といった構造物の側壁はエッチングされず,底部のみが反応する方向性をもって加工することができる.しかしながら,選択性と垂直加工性が実現するものの,表面ではシリコン酸化膜のエッチングと同時に,エッチング抑制効果ももつフルオロカーボン(a-C:F)膜が堆積するといった極めて複雑な反応が進行している.この表面堆積するa-C:F 膜は,エッチングしたくない部位ではエッチングを抑制し,被加工物のシリコン酸化膜上でのみエッチングと同時にうまく除去されると考えられている.そこで,本研究では,この複雑な表面反応で重要な役割を担っていると考えられるa-C:F 膜に着目し,この解析に努めてきた.

 本研究では,所望のエッチング特性(形状や加工速度など)を得るため,効率的に反応を制御することを目的として,フルオロカーボンプラズマによるシリコン酸化膜エッチングプロセスの表面反応について研究してきた.表面反応を解析するため,赤外分光法や電子スピン共鳴法といった様々な分光手法を用いてエッチング中の表面を観察し,その物理化学的解析を通じて表面反応を理解しようと取り組んできた.以下に,本研究で得られた成果についてまとめておく.

(1) CFx ラジカルと表面の相互作用(第3章)
***(1) CFx ラジカルと表面の相互作用(第3章)

 エッチング中のa-C:F 膜の堆積過程で堆積レートを左右するものにフルオロカーボンラジカル(CFx)が考えられてきた.主に,CFx のプラズマアフターグローでの減衰過程や表面近傍のラジカルの密度勾配から,CFx の表面への吸着やa-C:F 膜からのCFx生成といった,CFx と表面の相互作用が,これまでにも数多く論じられてきた.ここで,a-C:F 膜を介した表面相互作用が論じられているにも関わらず,気相中のCFx ラジカルと表面のa-C:F 膜の相関について調べられてはいなかった.そこで,筆者は気相中のラジカルをレーザー誘起蛍光(LIF)法で調べるのと同時に,表面を赤外分光法を用いて“その場で”観察することとした.また,ラジカルと表面の相互作用を論じる上で,表面近傍の表面垂直(z)方向の密度分布が重要と考え,z 方向にシート状にしたレーザーで励起する二次元LIF 法を適用してCFx のz 方向分布の観察と,さらに表面に堆積するa-C:F 膜の同時観察に成功した.

 プラズマ密度ne が低密度(ne < 1011 cm−3)の場合は,これまで報告されてきた表面反応モデルで矛盾なく説明される結果となった.一方,高密度(ne > 1011 cm−3)では,表面近傍のCFx の密度が高くプラズマバルク部で低い特徴的な(concave)分布を示しており,同様の結果は既に報告がなされていた.しかしながら,本実験で新たに明らかになったこととして,このようなconcave なz 方向プロファイルの決定に表面のa-C:F膜が関与していないということである.この結果は,プラズマバルク部でCFx の過剰解離による密度低下(destruction)モデルで良く説明される.また,この高密度領域では,a-C:F 膜の堆積速度についてもCFx 密度との相関は見られなくなっていることを明らかにしてきた.このことは,イオンなどの気相の別の化学種が関与したり,表面がa-C:F 膜の堆積を促進するように変性していることが考えられた.実際の加工現場で使用される装置の高密度プラズマ化が進んでいる中で,低密度プラズマで得られた知見が通用してこなかった事実の背景には,このような気相中のプラズマ化学と支配的な表面反応が変化していたことを指摘できた.

(2) CFx+ イオンと表面の相互作用(第3章)
***(2) CFx+ イオンと表面の相互作用(第3章)

 プラズマエッチングの垂直加工性がイオンによる反応によって生じることからも,これまでにイオンと表面の相互作用については,ビーム状に制御されたイオンを表面に照射する方法で調べられてきた.しかしながら,施されたビーム実験,得られているデータで,調べられていない領域があることに気付いた.エッチングの表面反応を知る上で,その領域が最重要であった.

 これまで得られた知見は重要であるが,以下の点で不備であった.(1) フルオロカーボンイオンビームのCFx+(x=1,2,3) といった化学組成を分離していない,(2) イオン照射時のラジカルの存在が無視されている,(3) 水晶振動子を用いるといったやや非現実的な表面を対象としている,(4) ビームのフラックスが小さいためか照射ドーズが少ない,(5)ドーズ依存性について調べられていない,といったことが問題であったと考えられた.

 そこで,筆者はCFx+ の化学組成を質量分離によって変えられるイオンビームの照射装置を利用して,シリコン基板上に形成されたSiO2 に照射した時の表面について“その場で”X 線光電子分光(XPS) 法を用いて観察してきた.F 化の度合いが高いCFx+ イオンで,高い(Eion >500 eV)エネルギーをもって照射した際には,これまで報告されている結果に一致した.しかしながら,本実験で新たに分ったこととして,F 化の度合いが低いCF+ といったイオンではSiO2 表面でも比較的高い(Eion ≤ 500 eV)エネルギーで照射された表面にa-C:F 膜の堆積が見られたことである.この堆積過程について詳細に検討した結果,清浄なSiO2 への照射初期(< 5 × 1016 cm−2)にはイオンスパッタリングによるエッチングが生じていて,この間に表面のC 量が増加していく.さらに照射していき高ドーズ(∼ 1017 cm−2)になると,SiO2 のエッチングは停止して,表面のC 量は臨界値に達したと見えて,連続的にa-C:F 膜の堆積が進行する.このような表面変性を介したエッチングからポリマー堆積といった現象が,よく制御されたビーム照射によって起こることを明らかにしてきた.このことから,高密度プラズマを用いたエッチングプロセスでは,表面に入射するイオン種の化学組成と,その照射によって引き起こされる表面変性の如何によって,エッチングとポリマー堆積といった相反する化学反応に相転位することを明らかにした.

(3) エッチング中表面のその場観察(第4章)
***(3) エッチング中表面のその場観察(第4章)

 本研究で対象とするフルオロカーボンプラズマによるシリコン酸化膜のエッチングプロセスにおいて,エッチング中の表面ではa-C:F 膜が堆積しながらエッチングが進行すると考えられてきた.しかしながら,現実にエッチング中の表面を“その場で”観察した例は皆無に等しかった.そこで,筆者はエッチング中の表面が,実際どのようになっているのかについて調べることとした.この目的のために,赤外分光法に感度向上のため全反射減衰(ATR) 法を適用することとした.a-C:F 膜の光学特性を解析し,エッチング中の表面で十分観察可能な光学系を製作することに成功した.また,被エッチング材料であるシリコン酸化膜との光学吸収とのオーバラップを検討して,観察しうる試料構造を提案し,シリコン酸化膜のエッチング中に表面に堆積するa-C:F 膜の観察に成功した.

 このエッチング中のa-C:F 膜の堆積過程は,時間分解能2s 以下の実時間観察を行い,スペクトルピーク解析を通して,解析することが可能となった.この解析結果から,表面のa-C:F 膜が定常的な厚さに遷移する過程を明かとして,定常膜厚さの決定が堆積レートと除去レートのバランスで説明できることを示してきた.その結果は,あらゆるエッチング装置で生じるエッチング中のa-C:F 膜堆積の遷移過程を考察することが可能であり,有益なデータを提供したと考えられる.

(4) 真空搬送電子スピン共鳴法による観察(第4章)
***(4) 真空搬送電子スピン共鳴法による観察(第4章)

 さらに,本研究では表面反応の詳細を調べるために,化学結合切断によって生じる不対電子,ダングリングボンドについて調べてきた.表面反応が,表面の状態によって変わり,反応の様相が一変することから,表面の状態が変化する理由を解析することが重要である.筆者は,その中でもエッチング中の表面近傍内部側(サブサーフェース)に形成されるダングリングボンドの役割に着目して調べてきた.表面に存在するダングリングボンドを観察することは,ダングリングボンドの化学活性なことから観察装置の開発が必要とされた.そこで,筆者はエッチング中の表面をもった試料を“その場で”電子スピン共鳴(ESR) 法を用いてダングリングボンド観測できる手法を開発してきた.開発された装置は,エッチング中を“その場で”とはいかないまでも,エッチング中に生成されたダングリングボンドを高真空中(in-vacuo)で搬送して観察することで,大気中や酸素によって消失するダングリングボンドの観察に成功した.

 この真空保持状態で搬送してESR 測定して新たに分ったことは,プラズマ堆積するa-C:F 膜中には極めて高いスピン密度(∼ 2 × 1021 cm−3)があり,酸素暴露によって消失することである.また,高いダングリングボンド密度は,ほとんど膜中のF 量に依存しない.a-C:F 膜は,酸素と反応するダングリングボンドを膜中に高密度でもちつつ,あたかもF を溜め込んでいるようにして表面に存在する.このことは,SiO2 のエッチングが,SiFx による脱離物形成とエッチングに応じたa-C:F 膜除去をうまく働かせている理由と考えられた.また,ダングリングボンドの形成にプラズマ光照射が働いており,高密度プラズマではフォトンのエネルギーとその輝度が高くなるため無視できないことを明らかにしてきた.

 以上のように.絶縁膜としてのシリコン酸化膜のフルオロカーボンプラズマを用いたエッチングの表面反応を解析してきて,僅かながら一部の解明に貢献することができた.

**5.2 今後の課題と展望

 本研究の成果を踏まえて,次のような課題が挙げられる.

(1) エッチング中のその場観察の時間分解能
***(1) エッチング中のその場観察の時間分解能

 エッチング中の表面を赤外分光法を用いて“その場で”観察してきたが,その時間分解能は2s 以下に留まっており,さらなる分解能の向上が急務である.本実験では,エッチング速度が数10nm/min といったレベルで進行する,表面のa-C:F 膜堆積の遷移過程を観察するのが限界であった.もし,100~10ms の時間分解能が得られれば,エッチング速度にして数100nm/min といった現実的なエッチングプロセスを解析することが可能となる.このためには,観察波数域を限定してレーザー光や分散型のセットアップを用いたり,非同期式のフーリエ変換型で高速な時間分解能を得ることを目指すことが有効であろう.

(2) 形状発展シミュレータへの組み込み
***(2) 形状発展シミュレータへの組み込み

 次に,フルオロカーボンラジカルやイオンといった個々の化学種について,表面との相互作用について調べてきたが,実際はそれらが集合として表面に照射され反応が進行している.このような現実的なエッチング反応をモデリングして検証していくことは課題である.いくつかの研究機関からエッチング反応モデルが提案されているが,その中の反応素過程に,本実験の結果が実装されていくのか,明確に示されたわけではない.このためには,実際に反応モデルを構築していくことが必要であろう.

(3) 表面反応の素過程の理解
***(3) 表面反応の素過程の理解

 ここで,表面反応モデルを入射種と表面状態から脱離種などを決定する素過程に分けていくことだけで足りるのだろうか.イオンビーム実験で見られたようなドーズ依存性は,このような素過程の重ね合わせでモデリングすることの不自然さを物語っているのかもしれない.とはいえ,少なくとも今以上に表面状態を決める素過程を経由して脱離種に至る表面反応が支配的なはずである.そのようなモデリングが実現されなければ,限られたエッチング表面反応を説明するだけで,ユニーバサルなエッチング反応モデルとはならないだろう.その点で,表面ダングリングボンドなどの表面状態を決められる物理量を導入
して全体の表面反応モデルを構築することが重要だろう.

(4) 真空搬送電子スピン共鳴法によるその場観察
***(4) 真空搬送電子スピン共鳴法によるその場観察

 表面ダングリングボンドの“その場で”観察する点については,エッチング中を観察することはできなかった.この点は課題である.元々,ESR の観察が電磁場をもちいており,プラズマの生成や荷電粒子の運動も電磁場によって構成されているからである.少なくとも,これらを結合させないで観察する手段にまで到れなかった.両者に関与する電磁場の大きさや振動数を大きく変えられれば,それは実現するかもしれない.エッチングのプラズマの磁場とESR 観察の磁場が結合しないようにしたり,スピン共鳴吸収の観察をレーザー光吸収などにする.ただ,この方向性は困難であろう.イオンといった荷電粒子を扱う以上,磁場の影響は避けられないし,プラズマといった存在の中で微量なスピン共鳴を観察するのは不可能に近い.そう考えると,荷電粒子自体の荷電状態によるエッチング反応が無視できる現象であれば,電荷中性化したビーム照射での“その場”観察は可能となる.このような発展は大いに望むところである.

 最後となるが,今後もさらなる現象の理解を進め,所望のエッチング特性(形状や加工速度など)を得るために効率的な反応制御が実現していくことを切望する.

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