SiO2Etching5 のバックアップソース(No.1)

#author("2020-12-03T10:22:45+09:00","default:ishikawa","ishikawa")
[[Memorandum]]

*第4章 エッチング表面反応のその場解析

**4.1 序
**4.1.1 本章の構成
 フルオロカーボンプラズマによるシリコン酸化膜エッチング表面反応について“その場で”化学結合や不対電子を観察した結果について述べる.

 シリコン酸化膜エッチング表面反応では,表面反応がデポジションとエッチングが同時に進行する非常に複雑な化学反応を利用しており,その解明されることが望まれている.これまでにエッチング表面に堆積するフルオロカーボンポリマー(a-C:F)膜について,多くの研究者が着目してきた.しかしながら,エッチング中のa-C:F 膜が観察されたことは,皆無に等しかった.エッチングによって後退する表面の上に堆積する膜の観察は技術的に非常な困難であることは容易に想像されるが,筆者はこのa-C:F 膜の堆積過程を“その場で”観察することが重要と考え,その観察に取り組んできた.

 エッチング中の表面を赤外分光法を用いて“その場”観察して,エッチング中に堆積するa-C:F 膜の観察に成功した.さらに,その堆積過程を実時間で解析して,a-C:F 膜の厚さがエッチング中に飽和するメカニズムを明らかにした.

 プラズマから入射するイオン,ラジカル,電子,光子などの粒子との相互作用によって,表面膜中や表面近傍の基板内部(サブサーフェース)に形成されるダングリングボンドに筆者は着目した.この分析を行うために真空搬送して試料観察できる電子スピン共鳴法の装置を開発し,表面ダングリングボンドの観察したので,その結果について説明する.

**4.1.2 研究方針

 高い加工性能を得る条件探索とその安定した制御のためには,フルオロカーボンポリマーの堆積を含めたエッチング表面反応の解明が欠かせない.

 これまでに,エッチング表面では

1. エッチング中の表面にはa-C:F 膜が形成され,

2. そのa-C:F 膜はエッチング中に定常的な膜厚をもち,

3. その定常膜厚とエッチング速度は逆相関の関係をもつ

と報告されてきた.これらの知見の多くはエッチング後に分析した結果に基づいており,エッチング反応機構の解明は未だ十分とはいえない.エッチング中に定常的に堆積すると考えられるフルオロカーボンポリマーの表面堆積挙動とその定常堆積の膜厚決定メカニズムの解析が望まれていた.特に,定常的な厚さをもったa-C:F 膜に関して

1. エッチング中に定常膜厚となる遷移過程,

2. 定常膜厚の決定機構,

3. 膜形成がある下でのエッチング反応

に関する微視的な議論は不十分である.エッチング現象は最表面が基板内部方向へ常に後退しているので,エッチング開始から最終的に定常状態となる遷移過程の様相によってエッチング特性が決定されると考えられるからである.XPS の分析ではエッチング最中の表面を分析することはできず,エッチングを一旦終了して試料を真空中で搬送したり,多くの場合は大気中を搬送した後の表面を測定した結果であり,エッチングその場の化学的にa-C:F 膜堆積を観察できることが望まれていた.そのため,エッチング反応の進行過程を“その場時間分解”で観察することに取り組んだ.そこで,本章の目的は,

1. “その場時間分解”の観察手段を確立すること,

2. 定常状態へ移行する遷移過程を解析すること,

3. エッチングの支配的な要因を解明すること,

を挙げ,この研究を進めた.

**4.2 エッチング中表面のその場観察
**4.2.1 背景~エッチング中のその場観察

 これまでにエッチング最中のa-C:F 膜の堆積挙動を“その場時間分解”の観察結果で調べられた報告には以下がある.1992 年に当時IBM のOehrlein のグループからHaverlag らがエリプソメトリ法による結果を報告している[1]. エリプソメトリ法による偏光角の情報からはSiO2 のエッチングとa-C:F 膜の堆積の判別は明白ではない.なぜならば,偏光角はエッチングや堆積以外にも基板温度変化や基板損傷層の存在によっても変わるからである.表面にa-C:F層が堆積すること以外にも酸化膜基板側にイオン照射によって形成されるダメージ層が形成されたり,プラズマに曝されることで基板温度が変化して基板の光学定数が変更するといった不確定要素が含まれていた.その後,1997 年にMarra とAydil は赤外全反射吸収分光(IR-ATR)法をもちいて,フルオロカーボンプラズマエッチング中に表面に堆積するa-C:F 膜の観察結果を報告した[2]. 赤外分光で観察されるCF 結合のピークはシリコン酸化膜のSiO 結合とは分離して観察可能なことを示した.しかしながら,それらの信号はオーバーラップしている.そのオーバーラップの影響については解析しておらず,また測定の時間分解能も15 秒が最高であった.

 そのため,a-C:F 膜の堆積とSiO2 のエッチングが分離して観察可能となるIR-ATR 法を観察手段のベースとして高感度化の手法を探りつつ,時間分解能の向上を目指す必要があった.そのために,筆者は

1. 通常よりも反射回数を増やしたATR法で高感度し,

2. CF とSiO の光学応答を解析して薄いSiO 膜をもつ試料構造を採用し,

3. ATRプリズム温度と全反射条件での減衰を低減し,

4. ATRプリズムにGe 材料をもちいる

などのアイディアで,この観察に成功した.ここでは,得られた結果について説明する.

**4.2.2 実験

 実験装置の概略を図4.1 に示す.ガス導入装置と真空排気装置を設け,アルゴン(Ar)とフルオロカーボン(c-C4F8 octafluoro cycrobutane),酸素(O2)ガスがマスフローコントローラーで流量制御して導入でき,処理圧力は手動コンダクタンス・バルブにより調整可能である.対向する平行平板電極を上下に有しており,100mm 口径のウェハが設置可能である.電極間隔は80mm である.上下各電極は絶縁されており,電力が独立に供給可能であり,冷媒循環による温度制御が可能である.電極温度は12◦C に設定している.本報告における実験では,基板設置側の電極に高周波(13.56MHz)電力を供給して対向電極は接地している.基板電極の自己バイアス電圧(Vdc)は高電圧プローブ(Tektronix 製6015A)をもちいてデジタルストレージオシロスコープ(HP 製HP54540C)で電圧波形をモニタし,平均値を計算して求めた.本報告で示す結果は供給パワーを制御して,自己バイアス電圧が- 650 ± 50 Vの範囲に固定した.

 電極に設置した試料の表面を赤外全反射吸収分光(IR-ATR)法で観察できるようになっている.フーリエ変換型赤外分光(FT-IR)装置(Nicolet 製Magna 860)内の干渉計を経て外部ポートから出射した赤外光を軸外し放物面鏡(焦点距離約250 mm)により集光し,チャンバー窓(BaF2)を透過させてプリズム形状のウェハ端部に入射する.プリズム内部を全反射によって透過した後,反対側の端部から出射した赤外光をレンズ(BaF2)によって高感度赤外検出器(MCT)に集光させている.プリズムの入出射角度は全反射条件を満たす45◦ としている.IR-ATR で検出する信号強度は反射回数に比例して増大する.

試料作成

 これまでの報告でも感度が不十分と考えられたので,通常もちいられるATRプリズム(52×20×2 mm)よりも反射回数が多くなる長さ(約100mm)と厚さ(0.5mm)を採用した.(アイディア1)このプリズムの場合,表面側での全反射回数は約100 回程度と見積もられるので,これまでの報告よりも2 倍程度感度が高い.実際に使用したATRプリズムは口径100mm,厚さ0.5mm である.全反射の際の乱反射防止などのために両面を鏡面研磨を施している.両面を鏡面研磨した不純物添加のないゲルマニウムのウェハ(東京電子冶金製,抵抗率40 Ω cm)の端部に45 度傾斜させた入射面と出射面を研磨して作製したものである.本来,シリコンのウェハをもちいたいが,シリコンの格子振動による自己吸収により1400cm−1 以下が観察不可能となる.そのためCF やSiO 結合の吸収を観察する必要から,これらの吸収位置である1200cm−1 領域が透過性をもつプリズム基板を使用する必要がある.これらの要求を満たす材料で比較的手に入りやすい材料にGeやGaAs がある.ここでは,ゲルマニウムを使用している.(アイディア2)前述通り,Ge もしくはGaAs の口径100mm の単結晶基板をプリズム加工して使用した.また,赤外光は電場を基板平行方向に(s)偏光している.基板垂直方向に(p)偏光した赤外光では酸化膜の縦光学(LO)モードが検出され,a-C:F 膜の吸収と重なってしまう.ウェハの温度上昇はプリズムの透過特性を変えてしまうため,プリズムは電極に電導性アルミニウム接着テープで貼り付けている.その際,赤外分光観察の光路となるウェハ裏面部分にはテープを貼り付けず,全反射条件時の光学損失をなるべく低減しないようにしている.(アイディア3)プリズム表面には,Si あるいはSiO2 をスパッタ法により堆積した.堆積膜厚は重要な要素であり,許す限り薄く高純度な薄膜であることが望ましい.堆積した薄膜の吸収による観察波数領域の制限があるからである.今回成膜上の問題から100nm 程度の膜厚のスパッタSi を用いたが,2000cm−1 の領域などはSi-H 結合による吸収で観察ができない.

 また,シリコン酸化膜の吸収係数が非常に大きく,10nm 以上の厚さでは吸収が飽和してしまうから,10nm 程度以下の酸化膜を用意する必要があった.(アイディア4)この目的で,前記スパッタSi 膜を酸化性プラズマに曝して,シリコン酸化膜を用意した.シリコン酸化膜に関する実験結果は,この方法で作成したプラズマ形成酸化膜を用いている.測定手順は,まず電極表面にウェハを設置した状態でレファレンススペクトル(バックグラウンド)を計測する.次に,エッチング中のスペクトルを最小0.5 秒間隔で取得した.