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#author("2020-12-04T19:44:49+09:00","default:ishikawa","ishikawa")
[[SiO2Etch]]

*2.7 シリコン酸化膜の誘電関数
**2.7.1 極薄ゲート酸化膜の評価を例として

 赤外スペクトルの測定手法は量産現場でモニタウェハの非破壊・非接触な評価可能であり,ゲート酸化膜のインライン・モニタとして使われる.膜厚が2nm というような極薄のゲート酸化膜の膜質,界面状態,膜厚を高精度に評価する例を示す.

 シリコン酸化膜の赤外分光測定を行うことにより

• 赤外吸収ピークの熱処理温度依存性,

• 赤外吸収ピークの膜厚方向の変化,特に界面近傍の変化,

• 酸化膜構造の統計的な分布,

• 界面凹凸が赤外スペクトルに与える影響について,

調べられる.シリコン酸化膜の赤外スペクトルを斜入射測定すると,通常の吸収測定で観測されるTO モード(Transverse optical mode)に由来するピーク以外にLO モード(Longitudinal optical mode)に由来するピークが観測される.このTO モードとLO モードの熱処理依存性と膜厚方向での変化には大きな特徴がある.熱処理温度を低温で行う程,TO モードは低波数で観測され,これは平均Si-O-Si結合角が低角になっていると解釈されていた.LO モードについては,膜厚依存を観測すると低波数シフトが見られ,この解釈にLO モードが表面垂直の選択性をもつこととの考えとTO モードの議論を延長して膜厚方向の平均Si-O-Si 結合角が異なる,異方性の議論がなされていた.しかしながら,LO モードが低波数にシフトが界面凹凸などの物理的な酸化膜界面構造の影響によってする点を指摘する.また,スペクトルピークの形状から酸化膜構造の統計的な分布の抽出について議論する.

 過去行われてきたシリコン熱酸化膜の物理化学構造に関する研究から,シリコンと酸化膜の界面近傍に5nm 以下の構造遷移層が存在すると報告されている[15]. SiO2 の組成にならない界面組成遷移層の存在も懸念されたが,Hattori らによって組成的には急峻な界面が形成されていると報告されている[16, 17]. シリコンの酸化膜成長はシリコン格子に酸素が挿入して生じるため,その体積膨張による界面歪みの存在が指摘され,この界面歪みは膜厚方向に酸化膜の粘性流動(Viscous flow)によって解放されると,Irene らに
よって報告された[18]. 図2.5 に粘性流動の概念図を引用する.この粘性流動による界面歪み緩和の結果,界面構造遷移層の存在するとLucovsky らとの研究によって図2.6 に示すように界面に真性ストレスの存在と,膜中のストレスは酸化温度が高くなるほど下がっていくと報告された[19]. このように酸化膜の熱処理温度によって大きく変わり,実際には700◦C のデータでは界面構造遷移層は30nm 程度から存在しているとも考えられた.しかしながら,このような構造遷移層に関する報告は多くなされているが,その厚さは数10nm から数nm と統一されておらず,またどのような構造化は統一された見解は得られていなかった.

 シリコン酸化膜の熱処理温度の依存性について赤外分光の垂直透過法を用いてTO3モードの吸収位置を観察した結果,図2.7 に示すようにピーク位置が界面近傍で低波数側にシフトすることが報告された[19, 20]. 熱処理温度を変えた場合に低温ほど低波数側に位置する.この処理温度と膜厚方向の低波数シフトの原因はシリコンと酸化膜の格子定数の違いにより発生する界面歪みの存在によってSi-O-Si 結合角が小さくなるために生じると解釈されている.また,電気的に見たシリコン/酸化膜の界面準位密度Dit は図2.8 に示すように膜厚や酸化温度によって変化することと,赤外吸収により観察した波数シフトが図2.9 に示すように相関があると報告された[21]. しかしながら,膜厚方向で変化しているにも関わらず赤外法で観察したピーク位置は膜厚方向に平均された構造しか観察できないという問題があった.

 極薄膜の評価においては透過法は感度が不足するため,高感度な測定が可能なゲルマニウムプリズムを試料に押し当てて計る全反射減衰反射吸収(Ge-ATR)法を用いた観察結果が報告された.測定する偏光を変えることでs 偏光ではTO と,p 偏光ではLO モードのピークが別々に観察できることが報告された[22–24]. 酸化膜を微量ずつエッチングしていき段階的な界面近傍のスペクトルを観察した結果,界面近傍ではLO とTO モードのピーク位置が低波数シフトすることが報告された.この時,LO モードの方が大きくシフトし,電場と酸化膜の相互作用を考えた結果,p 偏光で観察したLO モードは膜厚方向の結合角の変化を反映しており,酸化膜構造の異方性が存在すると解釈された.しかしながら,TO に比べLO モードのみが大きく変化しており,両者の相関については明らかとされなかった.

 LO モードの低波数シフトに関しては,別の系であるが結晶中の酸素析出物や純水中の自然酸化物形成過程の観察結果において報告があり,その原因は反分極場による表面モードの効果であると解釈されていた[25]. すなわち,波長よりも小さい酸化物の測定では化学構造が同じであったとしても,その形状によってバルクのTO とLO のピーク位置からシフトする.したがって,波長(およそ10μm 以下)より小さい酸化物は,その回りの媒質(ここではシリコン)との混合物と仮定した架空の物質からの光学応答として有効媒質近似[26] をもちいた説明が必要であると著者は主張した.

 界面凹凸の部分では,理想的な平坦界面を想定すると,シリコンと酸化物の混合層が仮想的に存在すると考えられる.そのため,有効媒質近似により界面凹凸のスペクトルへの影響を考察した.界面凹凸部分の厚さは,数nm 程度存在すると報告されているため,5nm 以下の酸化膜を観察した場合には,界面凹凸層は無視することができない.もし,この方法で界面凹凸が検出できれば,トランジスタの移動度に影響する因子としても考えられており有益である.酸化膜の信頼性の観点からは構造の統計的な分布も重要である.その理由は,酸化膜を薄膜化してゆくと直接トンネル電流領域を使用するようになり,劣化によるリーク電流の取り扱いが困難となる.これは,リーク電流や破壊の原因となる電気的な欠陥生成に統計的な振る舞いを考慮する必要が生じるためである.そのため,欠陥生成の原因となる酸化膜構造の統計的な分布も重要な指標となっている.

**2.7.2 シリコン酸化膜の赤外スペクトル

 シリコン酸化膜の赤外スペクトルは,450cm−1 に横揺れ(ロッキング)モード,800cm−1に変角(ベンディング)モード,1050cm−1 に非対称伸縮(ストレッチング)モード,1200cm−1 に光学不活性非対称伸縮モードによる吸収が観察される.これらの4つのモードは,低波数側から1 から順に番号が付けられている.(図2.10)これらの観察にはフーリエ変換型赤外分光器を用いた.ベンディングとストレッチングモードの観察(650cm−1以上の範囲)には液体窒素冷却したMCT 検出器とKBr のビームスプリッター,ロッキングモードの観察(300~650cm−1 の範囲)にはシリコン・ビームスプリッターとポリエチエレン窓のDTGS 検出器を用いた.

 通常の垂直入射測定ではTO モードのみの観察しかできないが,斜入射をもちいるとベルマン効果によってLO モードの観察も可能となる[27]. そこで斜入射の反射測定は,入射角度可変の光学系または,70 度と80 度の固定入射角度の反射治具を光路に挿入することで行った.偏光スペクトルを得る場合には,偏光子を光路に挿入し,所定の偏光角度に設定した.測定条件は分解能8cm−1 とし,窒素雰囲気中で,ノイズ低減のためにMCT の場合には500 回程度,DTGS の場合に100 回以上の積算をおこなった.酸化膜の熱処理温度と電気特性との相関関係においては,高温熱処理を受けた酸化膜の方が一般に良好な電気特性であることが知られている.赤外スペクトルにおいては,熱処理温度が高いほどTO3 モードのピーク波数も高波数側に位置し,その半値幅が狭くなると報告されている.そこで,斜入射を用いた極薄膜の評価で有利となるLO モードと従来から観察されているTO3 モードを同時観察をおこない,両モードの相関関係を明らかにした.

 乾燥酸素雰囲気中800◦C で30nm の酸化膜を形成し,その後Ar 雰囲気中800,900,1000,1100◦C の温度で別々に熱処理を施した.この方法により,酸化膜成長を同じ条件として,熱処理温度による構造変化を議論することが可能となる.この酸化,熱処理時に意図しない酸化膜形成を行わないため,炉への導出入は室温,不活性ガス中でおこなった.実験結果は,図2.12 に示すTO3 モードに関しては熱処理温度が高い程,波数は高くなるという従来の結果に一致する.しかしながら,図2.13 に示すLO モードは熱処理温度に依存せず同じ波数となった.このことから,熱処理温度による酸化膜の構造変化はLOモードのピーク波数だけからは議論できないことが示された.一方,図2.12 と図2.13 に示したようにエッチングにより薄膜化していきピーク波数の膜厚依存性を観察した結果,およそ3nm 以下の膜厚になるとTO とLO の両者が低波数シフトした.このように膜厚方向では熱処理温度によらずTO モードとLO モードの両ピーク位置にシフトが生じることが示された.

 熱処理温度でLO モードにシフトが見られないことから,垂直方向にのみ平均結合角が異なるという構造変化の解釈は相応しくない.TO モードのみのシフトが観察され,LO モードにはシフトが観察されない理由を考察した.LO モードのピーク位置は,エネルギー損失関数Im(−1/) のピーク位置と一致し,ドゥルーデモデルでは誘電関数の実部と虚部の値が同じになる値であり,ガウスモデルでもほぼ同じような条件を満たす値となる.この条件を満たす値は,TO4 モード裾の形状に大きく依存し,TO4 モードが変化した場合にLO モードのピーク波数がシフトすることが示された.これは,熱処理によりTO4 がシフトしないことに由来する.ではストレッチング(図2.14)以のモードでは,ベンディング(図2.15)とロッキング(図2.16)モードの観察も行った結果,これらモードはTO4 モードと同様に大きなシフトが観察されなかった.

 以上の観察結果からモードによってシフトするものとしないものがある.このことは,アモルファス物質のランダムネットワークモデルから説明される.アモルファスSiO2は,AX4 型の四面体構造の頂点を結合した形態に分類される.このような構造をもつ物質の振動ピークは,AX4 四面体の頂点結合によるランダム・ネットワーク・モデルにより一次近似され,よく説明されることが知られている.四面体結合のSi-O-Si 結合部分の運動式を解いた結果から各モードのピーク位置は(式)を得る.ここで,α は中心力定数,β は非中心力定数,θ はSi- O-Si 結合角である.このモデルに従うと, 熱処理温度によるピーク波数シフトの原因は,両力定数は変化せずに結合角が変化した結果と解釈できる.ただし,これらの統計的な分布は重要である.

**2.7.3 構造分布の評価

 酸化膜構造の統計的な分布は,電気的な破壊や劣化の原因となる欠陥生成の統計的な分布に関係すると考えられ,酸化膜の信頼性を評価する上で重要な指針となる.そのため,酸化膜構造の統計的な分布の抽出に意味がある.

 構造分布を抽出するために実際のピーク形状を観察すると非対称であることがわかる.この非対称を説明するためには,従来は複数のピークを仮定したピーク分離がなされていた.この根拠は,複数の組成やリング構造が存在し,それらがそれぞれが分布するという仮定であるが,この仮定の妥当性は検討の余地があり,パラメータを不用意に増やす結果をもたらしていた.そのため,筆者は各バンドにピークは一つのみで,構造分布関数によってのみ説明して簡略化を考えた.そこで,非対称ガウス型での説明を試みた.スペクトルピークの形状は構造分布を反映していると考えるが,アモルファス物質では構造秩序が乱れているために,振動寿命が短いとも考えられる.振動寿命が短いことはピークがブロードニングすることを意味する.そのため,構造分布では構造秩序を反映することになる.実際に,振動寿命が短くてローレンツ振動子の減衰振動数が増加した場合のスペクトルでは,(図2.17)ピーク形状がローレンツ型のように裾が広がった形状になる.実際のピーク形状は,裾が広がった形にはならずにガウス型であるため,構造秩序の乱れによるピーク・ブロードニングは無視できる.その理由には,振動準位密度のブロードニングと波数0近傍の準位が吸収に関与しており,個々の振動は局在化して振動寿命が比較的長いことが考えられる.この結果,個々のローレンツ振動子の減衰振動数は結晶と同程度に小さいと仮定できるので,構造分布関数を導入した誘電関数のピーク形状そのものが構造分布を反映すると考えられる.

 実際のスペクトルを非対称ガウス型誘電関数モデルによって,フィッティングしてパラメータを抽出した.この結果を図2.18,図2.19,図2.20 に示す.得られたパラメータを表2.2 に挙げる.1000◦C の熱処理した酸化膜のスペクトルにフィッティングした各バンドの振動ピーク形状から,前述の中心力モデルを用いて,中心力(図2.21),非中心力(図2.22),Si-O-Si結合角(図2.23)の分布を逆算して抽出した.この結果,中心力,非中心力の分布は非対称となっているが,結合角分布はほぼ対称ガウス分布となっていることがわかる.(図2.23)言い換えれば,結合角は対称分布であれば,スペクトル上は非対称ガウス形状になる可能性がある.このことから,複数のピークを仮定することなく,乱雑性はSi-O-Si 結合角の対称ガウス分布とすれば,赤外スペクトルから得られる誘電関数は非対称ガウス型が望ましいことを示した.

 フィッティング結果(表2.3)からシリコン酸化膜のSi-O-Si 結合角の分布は半値幅20◦程度であることが推察される.熱処理温度を800◦C から1100◦C にすることで結合角分布の中心を134◦ 付近から136◦ 付近にシフトさせ,やや狭める結果となる熱処理温度依存性をもつことがわかった.このような構造変化がデバイスを製造した時の電気特性にも影響することが示唆される.

**2.7.4 膜厚方向分布の評価

 スケーリング則による要求によりゲート酸化膜の厚さは,1.5nm 程度の厚さを均一に形成することが要求されており,これまで報告されてきた構造遷移層の厚さ以下となっている.また,報告されている構造遷移層の厚さは,統一的な値が得られておらず,構造遷移層の厚さとその構造を明らかとすることが求められていた.この構造遷移層が厚く,大きく異なる構造である場合には,電気的な特性への影響が懸念された.

 界面構造遷移層の厚さと構造を明らかとするために酸化膜の微量エッチングと測定を繰り返して,膜厚の異なるスペクトルを取得した.(図2.24)この時,微量エッチングは希フッ酸を用いているので,構造の変化は無視できるので,薄い膜厚のスペクトルから誘電関数を順に求めて,次の層の誘電関数をそれまで求めた誘電関数を加味して求めていった.エッチングされた層のみの誘電関数を順番に抽出することで,膜厚方向の構造プロファイルを抽出した.比較のため,同じ膜厚で各層の構造の異なる誘電関数を用いて赤外スペクトルを計算して得られた結果を図2.25 と図2.26 に示す.図2.25 に示すように界面近傍1nm とその直上のスペクトルを比較すると大きな違いが認められるが,図2.26 に示すように1nm 以上の厚さではスペクトルに大きな変化は認められなかった.この方法で,TO3 モードの膜厚方向のプロファイルを図2.27 に示す.このように界面最近傍1nm以下の領域に構造遷移層が存在し,その領域以外はバルクと考えられる.

**2.7.5 界面凹凸の赤外スペクトルへの影響

 シリコン/酸化膜界面には界面凹凸が存在することが知られており,MOSFET ではフォノン散乱による移動度劣化を引き起こす意味からも重要である.その評価手段は,埋め込み界面であるという制約から破壊分析に頼らざる得なかった.そのため,非破壊の分析手法は有用である.膜厚が,凹凸の大きさと同程度になると,界面凹凸の影響が無視できなくなるため,界面に凹凸に起因したシリコンと酸化物の混合物からなる架空の層を考え,その光学応答を取り入れた.(図2.28)理論的に取り扱えるように酸化物を楕円と考えると有効媒質近似によって,凹凸部分の平均誘電関数は以下のように表すことができる.

有効媒質近似の平均電場Eav と平均分極Pav は(式)と(式)であり,f は体積占有率,p は楕円近似した酸化物とm はシリコン基板を示す.楕円近似した酸化物の内部電場はで与えられる.ここで,g は反分極による因子である.赤外光の電場は表面垂直で楕円体の主軸に平行と仮定すると,分極マトリクスはスカラーとなる.g 因子は(式)となり,マクスウェルの方程式を使って有効媒質近似された層の誘電率は(式)と与えられる.このとき,L は楕円体の主軸をa1,a2,a3 とする時L1 +L2 +L3 = 1 とL1 : L2 : L3 = (式)を満たすように決められる.つまり,g 因子によって楕円近似した酸化物の凹凸の周期に相当するパラメータを表し,f により酸化物の体積占有率を表せる.この時,酸化物の誘電関数はバルクと同じであると仮定した.

 膜厚の異なるスペクトルのLO モードの変化は,図2.29 に示すように凹凸を仮定しない場合には実験結果と大きく異なるが,図2.30 に示すように凹凸を仮定することでかなりの部分は説明可能であることが示された.得られたL は0.75,f は0.9,d は0.8nm であった.この値は分光エリプソや断面透過電子顕微鏡で調べられた界面凹凸の値と矛盾しないものである.そのため,LO モードのピークシフトの原因は,界面凹凸といった物理的な構造に影響しており,この方法を用いることによって非破壊に界面凹凸を評価できる.

**2.7.6 まとめ

 ULSI デバイスの高集積化の進展に伴い,デバイスの電気的な特性に益々顕著な影響を及ぼすゲート酸化膜の構造評価を例にとって説明した.赤外反射吸収分光法を用いてシリコン熱酸化膜の構造評価をおこない,極薄膜を感度良く観察する方法を説明した.赤外スペクトルに含まれる光学効果によるスペクトル歪みを除くため,スペクトルシュミレーションを用いて酸化膜の誘電関数を導出することにより,膜構造を正確に解析する方法を確立した.

 酸化膜の熱処理温度依存性は,TO1 やTO2,TO4 では大きく現れず,TO3 モードにのみ大きく表れることを示した.このピーク形状が酸化膜中の構造分布を反映しており,Si-O-Si 結合角がランダム分布しており,対称ガウス分布している場合にも,実測のスペクトル形状が非対称になる可能性を示した.結合角分布の中心は135◦ 付近であり,熱処理温度が高いほど,分布中心は広角側にシフトし,分布幅をやや狭めると解釈できることを示した.

 界面構造遷移層の厚さと構造を明らかとするため,膜厚方向の構造プロファイル抽出をおこない,構造遷移層が界面近傍1nm 以下の領域に存在することを示した.構造については,TO3 ピークが大きく低波数側に位置することを示した.LO モードのピーク波数は界面凹凸の影響により変化することを有効媒質近似を用いて明らかとし,本方法により界面凹凸の非破壊検出できることを示した.

*2.8 フルオロカーボン膜の誘電関数
**2.8.1 フルオロカーボン膜の赤外スペクトル

 赤外スペクトルでアモルファスフルオロカーボン(a-C:F)膜には1220cm−1 と1700cm−1 にピークが観察される.前者の強度が大きく,CF2 の伸縮振動モードと同定されており,1700cm−1 はC=C の伸縮振動モードがF の結合によりシフトして,この波数位置に検出されると同定されている.

 これまで報告されているCF 結合に由来するピークの同定結果について表2.4 にまとめておく.Gangopadhyay のグループがa-C:F 膜の赤外測定を行っている[28]. 他にも,Lin のグループが報告している[29].シリコン基板上にa-C:F 膜を80nm 堆積した試料を作成した.この堆積膜の一部を剥離して形成した段差を表面探針プロファイラー(Veeco 社Dektak V 300SL)で測定することで膜厚を求めた.このa-C:F 膜の測定した赤外透過スペクトルをにシミュレーション結果をフィッティングすることで,a-C:F 膜の誘電関数パラメータを導出した.誘電関数導出には,クラマースクロニッヒの関係式ではなく,前述のガウスモデルを用いた[30].赤外透過スペクトルとそのフィッティング結果を図2.31 に示す.実線が測定スペクトルで,点線がフィッティング結果である.得られた誘電関数を図2.32 に,導出した誘電関数パラメータを表2.5 に示す.