1.はじめに
半導体デバイス製造はナノメータレベルで行われ、この加工技術の進展にともない材料表面の清浄度も高い制御が要求されている。ならびに、被処理対象が昨今300mm径の大口径ウェハの採用によって、純水・薬品・ガス使用量は著しく増大し、その削減技術は地球環境への配慮から重要になってきている。このような状況において、従来の液体を大量に使うウェット洗浄ではなく、ガスを使うドライ洗浄が今後の微細加工に対応する洗浄技術に有望であろう。これまでにも様々なドライ洗浄技術が提案され開発されてきたが、これまでのところ洗浄性能やその制御性、あるいは2次汚染やプロセス損傷の発生といった問題により、ウェット工程を完全に置き換えるまでには至っていない。とはいえ、今後の半導体産業を支える技術としての期待は大きく、ここではドライ洗浄技術の開発現況と展望について述べる。
2.ドライ洗浄の要件と方式[1,2]
半導体洗浄における被処理対象物は、Siウェハ上の微量残留金属、有機被膜、エッチング残留物、レジスト、無機被膜(自然酸化膜)、付着微粒子(パーティクル)それに配線金属の表面被膜などである。表1に提案される各種のドライ洗浄法、対象物を示す。これらは単に物理吸着するだけでなく、下地と化学的あるいは電気的に付着して、あるものは基板に入り込み、Si結晶欠陥と結合している。結合形態が明らかな汚染に対しては適切な化学現象を活用可能であるが、対象となる大半の汚染は多種多様なものであり、それらの形態は十分解明されていない。そのため、それらの除去には物理的・化学的なマクロ手法の組み合わせに頼らざるを得ないのが現状である。
例えば、成膜の前に表面の汚染被膜の除去は不可欠である。イオンなどの運動エネルギーをもった粒子を表面に照射して、それらは除去可能である。あるいに、氷の微粒子を用いたアイススクラバー、あるいはArエアロゾル照射で微粒子除去をおこなうことも実用化されている。さらには、ウェット洗浄と同様に考えれば、基板の表層を薄くエッチングすることによって、微粒子をリフトオフさせることもできる。しかしながら、これら方法では物理的な処理のために機械的な損傷が生じることがある。
そこで、適切なガス化学反応を利用すれば、基板に損傷を与えることなしに選択的に汚染除去が可能である。例えば、オゾンあるいは光励起酸素は有機被膜を選択的な除去に有効であり、フォトレジスト除去などに使われている。ただし、基板は酸化性雰囲気に晒される酸化膜の形成が避けられず、引き続く酸化膜の除去も必要となる。ここで、Si酸化膜であればフッ素系のガスを用いて除去できる。ただし、微量のフッ化物の残留が問題となることがあり、フッ化物を残留させない技術が重要となっている。実際、金属配線やSiコンタクト形成あるいは金属シリサイド形成の前処理に使われている。
微量金属の残留は半導体デバイスの性能を劣化させるので、その除去は必須である。微量金属の場合、表面に存在する場合には直接反応性の高いハロゲンガスなどとの反応によって揮発させる技術が開発されており、シリコン基板内部に拡散している場合には表層を薄くエッチングすることが必要である。
簡単に述べてきたが、以上の手法を組み合わせて、ウェハバルク工程では既にドライ洗浄の可能性が実証されている。配線工程においても、微粒子除去と配線金属表面の被膜除去、特にビア洗浄において、その可能性が試されている。次に、特に重要な金属汚染除去、Si自然酸化膜除去、Cu配線表面洗浄について述べていく。
3.微量金属汚染除去[3-6]
金属汚染は、ゲート絶縁膜の信頼性低下やダイナミックランダムアクセスメモリ(DRAM)の保持時間低下など、歩留まり低減に直接影響を及ぼす。この金属汚染の除去には紫外線(UV)照射下で生成した塩素ラジカルによるドライ洗浄方法(UV/Cl2)が使用できる。図1はその効果をあらわすものとして、Si表面にあらかじめ汚染させたFe, Al, CuがUV/Cl2ドライ洗浄で除去される結果を示す。除去対象となる金属汚染(M)を蒸気圧の高いハロゲン化物(MClx)の形として揮発して除去が達成される。そのためにUV光照射の他にもウェハ温度の制御が重要である。図2に示される通り、ドライ洗浄の効果は処理温度に強い相関を示し、400℃の条件下13nm程度のSiのエッチングによってドライ洗浄後のSi表面のFe濃度は1x1013 atoms/cm2程度から1x1010 atoms/cm2以下(誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)の検出下限(Detection Limit))にまで低下する。
図1
4.シリコン表面の自然酸化膜除去[8-13]
基板へのコンタクトの形成プロセスには、ホール底面自然酸化膜除去技術が要求されている。同時に、シリコンデバイスの微細化要求に伴い、この処理においてホール径の肥大は最小限にする必要もある。薬液処理では、ホール径が微細になると水洗時の薬液置換やその後の乾燥が困難となり、ホール径肥大やホール底面の再酸化を引き起こす可能性がある。これら問題の解決には側壁材料のエッチング量の低減と、洗浄後の再酸化防止が望ましく、特に再酸化防止については前処理室をドライ化して成膜と同一装置で行い、両者の装置間または処理間は非酸化性雰囲気にすることで達成される。
一方、側壁材料として使われていたボロン・リン添加化学気相成長酸化膜(BPSG)は緩衝フッ酸溶液を用いても、不純物の酸化物(ホウ酸やリン酸として)の水への溶解が顕著なためエッチング量を低減するのは困難である。そのためにも、溶液処理よりもドライ処理が有利と考えられる。
これまでに、NF3/NH3[7]やH2/NF3リモートプラズマを用いた酸化膜除去技術が報告されている。これらリモートプラズマ処理では、NF3のプラズマ中解離によって発生するF原子がシリコン格子中に入り込み酸化膜除去後のシリコン基板の変性やキャビティー部材のエッチングによる発塵などが問題であった。HF/H2O蒸気処理も報告されているが、エッチング量がHF濃度に影響を受ける点や、真空一環プロセス化の装置化に困難であった。
一方、水素+水プラズマと、そのダウンフロー領域におけるNF3添加した方法では、前記のような問題点がなく、また高エネルギー粒子の照射もなく、ダウンフロー領域に多量の水素原子を輸送してからNF3を添加するためF原子発生が極端に少ないなどの特徴をもつ。さらに、この水素ダウンフロー酸化膜除去では、エッチング副生成物が表面に堆積することによってエッチングが自己停止する現象があるため、エッチング量制御の点で望ましい。
図4には水素ダウンフロー装置の概要図を示す。マイクロ波キャビティーに水素と水蒸気の混合ガスを導入してプラズマを発生させ、その下流においてNF3ガスを添加し、さらに下流において温度可変可能なステージ上にウェハを設置して処理する。石英製のキャビティーと輸送管をもちいることで、水添加の効果により再結合消失が低減されダウンフロー領域に多量の水素ラジカルを輸送することができる。
図4
図4 水素ダウンフロー装置の概略図
また、水素ダウンフロー処理後のウェハ上には反応副生成物が堆積する。この副生成物はアンモニア・ヘキサフルオロシリケート((NH4)2SiF6)であることがわかっている。この堆積物が処理の重要な役割を果たしているが処理後には除去する必要がある。この物質はフッ化アンモニウム(NH4F)処理後やSiNのCF4プラズマエッチング処理後の表面でも観察されており、不活性ガス雰囲気中で100℃程度に加熱したり、水洗によって容易に除去できる。
HF/H2O蒸気処理やリモートプラズマ処理のエッチング量は温度や酸化膜種に依存して変化する。水素ダウンフロー処理においてもウェハ温度に依存して変化するが、そのエッチング挙動は異なっている。図5にはウェハ温度に対するエッチング量の変化を示している。条件はマイクロ波パワー500W、処理圧力107Paに固定して5分間処理した熱酸化膜とBPSG膜(B: 3.1, P:6.5 wt%)からの結果を示している。(1)ウェハ温度が低いほどエッチング速度が高く、(2)低温では熱酸化膜と較べてBPSGが同等か、それ以下で削れにくくなっている。この時、自然酸化膜は45秒処理で完全に除去されている。
図5
図5 エッチング量のウェハ温度依存性;BPSGと熱酸化膜
以上のことは水素ダウンフロー処理の反応機構が、表面へのエッチャントの凝集・付着量の増加によって促進していることを示している。処理圧力はHFと水のいずれの蒸気圧よりも低いために、それらの表面凝集層は形成されないと考えてよい。しかし、反応副生成物組成がNH4F溶液処理後と類似していることから、NH4Fといった蒸気圧の低いエッチャントが供給され表面で凝集する効果と考えられる。実際、エッチング量と反応副生成物の堆積量の関係は条件によらず相関が見られており、ガス状のエッチャントが供給され酸化膜と反応した反応副生成物が表面に堆積して、次には過剰なエッチング進行を抑制することで自己停止機構に有効に働いていると考えられる。
では、NH4Fがエッチングに有効に働いた点を考えると、溶液処理におけるBPSGのエッチング挙動は複雑であるが、単純化するとホウ酸やリン酸としての溶解、SiO2はHF2-イオンによるフルオロケイ酸塩(H2SiF6)の形成によって説明される。この時、BPSGの溶解速度はNH4F濃度に対して極大をもっており、高濃度のNH4Fではホウ酸やリン酸の溶解が極度に低下するため、BPSGよりもSiO2のエッチングが同等か高い結果が得られる。ただし、高濃度の溶液は用意できないがドライ化によって理想的な環境となっていると考えられる。
他にも処理圧力依存性を見た場合、150Pa以下ではエッチング量が処理時間に対して飽和する現象が見られる。一方、150pa以上ではエッチング速度が低下するものの飽和現象も緩和されていく。これはプラズマ中での水素ラジカル生成の圧力依存性が関与している。実際、100Pa以下では水素ラジカルが圧力に比例して増加するが、100Pa以上ではダウンフロー中での再結合による損失の方が支配的になるからである。以上の結果は、エッチング速度が水素原子濃度に依存してエッチャント生成が増加することと、その表面吸着によって進行し、エッチング進行にともなう反応副生成物の堆積が過剰なエッチングには抑制効果として働いている。
6.今後の展望とまとめ
半導体デバイス製造のプロセスは、薄膜形成、パターニングの繰り返してあり、各プロセス前後の表面の清浄化は欠かせない。回路パターン寸法の微細化が進むにつれ要求される表面清浄度も高まる一方である。このため、厳しい汚染管理を満足し、地球環境負荷を低減する洗浄技術としてドライ洗浄は有望である。
また、昨今新しい材料の導入は避けられない方向である。これまで汚染源として極力避けられてきた重金属類がゲート酸化膜やゲート電極などの材料に挙げられている。配線工程ではポーラス材料の導入も進んでおり、ますます洗浄に対する技術要求は高くなっている。このような多種多様な材料の導入は各プロセス間の洗浄目的を機能的に達成する必要性を推し進めている。すなわち化学選択的な洗浄方法の確立と制御が欠かせない。
さらに洗浄の目的には次の工程前の表面を制御することにある。この表面が積層構造における異種材料の界面となり、ゲート酸化膜前処理といった用途ではデバイス動作に大きく影響するし、配線構造においても密着性がデバイス信頼性に影響を与えることが報告されている。その一方で、清浄化後の活性な表面は、その後の自然酸化膜形成などの環境の影響が無視できない。そのため、成膜装置に前処理室を設けたマルチチャンバー装置化などが一層進むと思われる。
半導体洗浄工程のドライ化は、デバイスの微細化、省エネルギー化、低コスト化などの要求に適合するものであり、今後も、新しいアイデアが出てくると期待される。洗浄対象となる各種汚染および表面現象のさらなる解析とメカニズム則った技術の開発が重要である。
謝辞
本文をまとめるにあたり、杉野林志氏、菊地純氏、小川洋輝氏、長坂光明氏、鈴木美紀女史、柳下皓男氏、伊藤隆司氏、土川春穂氏、藤村修三氏、岡村茂氏、鈴木浩介氏、中村守孝氏、大場隆之氏、西川伸之氏、早見由香女史、棚橋徹氏他多くの方に支援、資料提供などのご協力いただきましたので感謝の意を表します。
参考文献
- [1] 伊藤隆司ら、”ドライ洗浄技術~半導体製造~”、精密工学会誌70, (2004), p. 894.
- [2] 小川洋輝ら、”はじめての半導体洗浄技術”、工業調査会 (2002), p.137.
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- [5] R. Sugino, et al., "Dry cleaning for Fe contaminants on Si and SiO2 surfaces with silicon chlorides", J. Electrochem. Soc. 144, 3984 (1997).
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- [19] 柳下皓男ら、”有機酸蒸気による銅表面清浄化検討”、第65回半導体・集積回路シンポジウム予稿 (2003), p.54.
(c) Kenji Ishikawa