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ドライプロセスによる表面処理・薄膜形成の基礎と応用
第3章 ドライプロセスによる薄膜形成と表面処理

*3.4 ドライエッチング [#z742cb8d]

 ドライエッチングは,超大規模半導体集積回路(ULSIs : Ultra Large Scale Integrated Circuits),薄膜トランジスタ(TFT : Thin Film Transistor)、微小電気機械システム(MEMS:Micro Electro Mechanical System)などのデバイスの微細加工技術として広く用いられている.ドライエッチングによる微細加工とは,被加工材料を揮発させ排気除去する方法であり,揮発させる方法には,エネルギーをもった粒子を表面に物理的に衝撃させスパッタリングする手段,化学的な作用で表面反応を生じた末,揮発性の物質を生成し排気除去する手段がある.前者の物理作用による方法としてイオンエッチングやイオンビームエッチング,後者の化学作用を含めた方法として反応性イオンエッチングが挙げられる.

**3.4.1 イオンエッチング [#h434a78a]

 後述する反応性イオンエッチング法によって,例えばハロゲン化物の揮発性の物質を生成しにくい金,白金や磁性体金属を微細加工する場合に,主にアルゴンなどの希ガスのプラズマから生成したイオンを主として用いるエッチングが用いられている.

1)プラズマ中の材料表面に入射するイオン
 イオンエッチングにおいて,プラズマ中に材料を置くことで,材料表面には,1)-3)で説明されるバイアス印加によってイオンシースが生成されるので,プラズマ内部からシース端に達したイオンは材料表面に高速で衝突する.導電体材料の加工では直流(DC)バイアスが印加され,絶縁物材料ではチャージアップによってイオンを加速して衝突させることができないためラジオ周波数の高周波(RF)バイアスが印加される.イオンシースは,圧力が低いほど平均自由工程が長くなるために厚くなり,プラズマ密度が高いほど薄くなる.イオンエッチングは,イオンの衝突によって生じる表面からの離脱物を効率的に排気するために,スパッタリングと同様,圧力は比較的低く数Paで行われる.例えば,Arガスでは2Paの時に平均自由工程は約1cmである.まず,イオンを加速するプリシース領域での電位差φsにより,材料表面に入射するイオン速度は となる.ここで,eは電荷素量,miはイオンの質量である。この速度は,電子温度Teの関数であり,ボーム条件(式)と呼ばれる関係式を満足するために,シース端の密度は自然対数の平方根倍(式)だけ下がっている.したがって,シース内を通過して材料表面に照射されるイオンフラックスは, となり,これはボームフラックス(Bohm flux)と呼ばれる.ここで,n0はプラズマ密度(~イオン密度)である.このフラックスよりイオンの電流密度J0が決定されるが,電流密度は各点で連続であるので,エネルギーも保存されるようにポアソン方程式を解くと下記の空間電荷制限電流の理論式,チャイルド・ラングミュア(Child-Langmuir)式も満足することが必要である.
 イオンエッチングにおいて,プラズマ中に材料を置くことで,材料表面には,1)-3)で説明されるバイアス印加によってイオンシースが生成されるので,プラズマ内部からシース端に達したイオンは材料表面に高速で衝突する.導電体材料の加工では直流(DC)バイアスが印加され,絶縁物材料ではチャージアップによってイオンを加速して衝突させることができないためラジオ周波数の高周波(RF)バイアスが印加される.イオンシースは,圧力が低いほど平均自由行程が長くなるために厚くなり,プラズマ密度が高いほど薄くなる.イオンエッチングは,イオンの衝突によって生じる表面からの離脱物を効率的に排気するために,スパッタリングと同様,圧力は比較的低く数Paで行われる.例えば,Arガスでは2Paの時に平均自由行程は約1cmである.まず,イオンを加速するプリシース領域での電位差φsにより,材料表面に入射するイオン速度は となる.ここで,eは電荷素量,miはイオンの質量である。この速度は,電子温度Teの関数であり,ボーム条件(式)と呼ばれる関係式を満足するために,シース端の密度は自然対数の平方根倍(式)だけ下がっている.したがって,シース内を通過して材料表面に照射されるイオンフラックスは, となり,これはボームフラックス(Bohm flux)と呼ばれる.ここで,n0はプラズマ密度(~イオン密度)である.このフラックスよりイオンの電流密度J0が決定されるが,電流密度は各点で連続であるので,エネルギーも保存されるようにポアソン方程式を解くと下記の空間電荷制限電流の理論式,チャイルド・ラングミュア(Child-Langmuir)式も満足することが必要である.
(式)
ここで,ε0は真空の誘電率,V0はシースバイアス電圧,dがシース厚に相当する.この関係からシース厚dは となる.ここで,λdはデバイ長さ(Debye length)であり,便宜上 である[1].先に述べたようにイオンシース中を通過する間に中性のガスと衝突することで,基板に入射するイオンは,エネルギーと入射角度の均一性を失い,イオンエネルギー分布関数(iedf: ion energy distribution function)とイオン入射角度分布関数(iadf: ion angular distribution function)で統計分布をもって表される.すなわち,平均自由工程,シース厚,RFバイアス周期に応じて入射イオンのエネルギーと角度は決定される。
ここで,ε0は真空の誘電率,V0はシースバイアス電圧,dがシース厚に相当する.この関係からシース厚dは となる.ここで,λdはデバイ長さ(Debye length)であり,便宜上 である[1].先に述べたようにイオンシース中を通過する間に中性のガスと衝突することで,基板に入射するイオンは,エネルギーと入射角度の均一性を失い,イオンエネルギー分布関数(iedf: ion energy distribution function)とイオン入射角度分布関数(iadf: ion angular distribution function)で統計分布をもって表される.すなわち,平均自由行程,シース厚,RFバイアス周期に応じて入射イオンのエネルギーと角度は決定される。

2)イオンエッチングの反応過程
 次に,イオンエッチングでのターゲットは,スパッタリングにおける原料とは異なり,デバイス等を構成する材料と考えるために,照射エネルギーは1keV以下となるようにして損傷が低く抑えられるように設定される.この程度の低い入射エネルギーでは,入射イオンは材料内の原子と衝突し,イオン自身の運動量転化(momentum transfer)をしながら衝突を順次重ねることにより,衝突連鎖が引き起こされる.これを線形コリジョンカスケード(Collision cascade)と呼び,表面にする反跳粒子を生み出し,運動エネルギーが表面結合エネルギーを超えていれば,気相中に脱離し排気除去される。さらに,十分な運動量転化が起きなければコリジョンカスケードの発達は抑えられ,材料表面に入射するイオンは材料の原子に衝突して反跳により後方散乱される粒子によって脱離物を生成させる,単純ノックオンカスケード(knock-on cascade)と呼ばれる過程が支配的になる。(図2-4-1-1)
 スパッタリング収率S(E)は,2-3)で説明されたように,1969年にSigmundによって提唱された線形コリジョンカスケード理論によれば,E<1keVの場合には(式)と説明される[2]。ここで,αは入射イオン質量(M1)と材料元素の質量(M2)比で決まるα因子,U0は表面結合エネルギー,Tmは(式)である.しかしながら,実験値のスパッタリング収率には,入射エネルギーに閾値Ethが認められる。Bohdanskyによって経験則では(式)と与えられた3).ノックオンカスケードにおいても,反跳原子の後方散乱に発達する確率は小さく材料内部方向へのエネルギー付与が大きいためスパッタリングされにくいという点を考えなくてはならない.
 さらに入射角依存性について,垂直入射から大きな角度をもって入射すれば表面の原子の遮蔽効果によって反射されるモードに移行する.この垂直入射(θ=0)に対する斜入斜の収率の比率は,散乱断面積σをもちいて(式)で与えられると提唱されている[3].ここで,fは入射角度依存性を示すf因子である.カスケード連鎖の発展具合により余弦分布の形状に変化が見られる.低エネルギーではアンダー余弦分布となっており60~70度の入射角度がもっとも運動量を転化しやすいため収率が極大となっている.このことは,イオンエッチング中にマスクの角部を後退させたり,再スパッタ粒子を反跳により生成することになる(図2-4-1-2).しかしながら,イオンエッチングでは,プラズマ中に置かれた材料表面のイオン方向は自己整合的に生成されるイオンシースによって表面法線方向からの垂直入射が主になる.一方,イオンビームエッチングでは,入射角度を調整することができるため,多様な形体を有する構造物のエッチングに使用することができる.

**3.4.2 イオンビームエッチング [#ae5b0c8c]

 イオンビームエッチングは,プラズマ室を別に設け,プラズマからイオンを引き出して被加工材料に衝撃させ,スパッタリング作用で気相に脱離させて排気除去するものである.イオンエッチングではプラズマに被加工材料が直接接するため,イオンシースが形成されることで,イオンは表面垂直方向から衝撃してスパッタリング作用を及ぼすが,イオンビームエッチングでは試料をイオンビームに対して傾けて設置することができるので,いわゆるイオン斜め入射でエッチングをすることが可能である.
 イオンビームの装置は,模式的に示すと図2-4-2-1のようになっているものが多い.例えば,イオン源となる絶縁物容器にコイルを巻き付け誘導結合方式で高密度のプラズマを生成する.グリッド状のイオンの引き出し電極を設け,イオンが引き出せるようになっている.容器全体のポテンシャルでイオンのエネルギーを定めることができる.また,イオンエネルギーの分布は狭くすることができる.

**3.4.3 反応性イオンエッチング [#lb415ab6]

 (略)[4-9]

*参考文献 [#nc7038b0]
-1)	菅井秀郎,“プラズマエレクトロニクス”,オーム社(2000).
-2)	P. Sigmund, “Theory of Sputtering. I. Sputtering Yield of Amorphous and Polycrystalline Targets”,Phys. Rev. 184, p. 383 (1969).
-3)	J. Bohdansky, et al.: J. Nucl. Mater. 111&112, p. 717 (1982).
-4)	H. Abe, Y. Sonobe, and T. Enomoto, “Etching Characteristics of Silicon and its Compounds by Gas Plasma”, Jpn. J. Appl. Phys., 12(1), (1973) 154.
-5)	Y. Horiike and M. Shibagaki, “A New Chemical Dry Etching”, Jpn. J. Appl. Phys., 15, (1976) 13.
-6)	N. Hosokawa, R. Matsuzaki and T. Asamaki, “RF Sputter-Etching by Fluoro-Chloro-Hydrocarbon Gases”, Jpn. J. Appl. Phys. Suppl. 2, Pt. 1, (1974) 435. 
-7)	J. W. Coburn and H. F. Winters, “Ion- and electron-assisted gas-surface chemistry-An important effect in plasma etching”, J. Appl. Phys., 50(5), (1979) 3189.
-8)	関根 誠,“プラズマエッチング装置技術開発の経緯、課題と展望”, J. Plasma and Fusion Research, 83, 4, (2007) 317.
-9)	堀 勝, “スマートプラズマプロセス”, 応用物理, 74, 10 (2005) 1328.

(c) Kenji Ishikawa