SiO2Etching2

SiO2Etch

序論

1.7.3 課題のまとめ

 これまで多く議論されてきたフルオロカーボンプラズマによるSiO2 エッチングの表面反応モデルでは,エッチング中に表面に堆積するa-C:F 膜に着目されてきた.エッチング中にa-C:F 膜が堆積するとしながらも,同時にSiO2 膜のエッチングが進行する有様を理解することが課題であった.つまり,どのようにa-C:F 膜が堆積しながらSiO2 がエッチングされているのか,を明らかにする必要があった.

 堆積性粒子の吸着は吸着サイト数に律速するラングミュア吸着モデルが導入されている.しかしながら,詳細を考えると,ラングミュア吸着モデルの問題点も指摘される.実験結果で得られる定常堆積するa-C:F 膜厚は数nm 以上と,1 分子層以上であることが報告されており,2 分子層以上の吸着において飽和する要因を想定することが難しい[44, 53, 54, 56, 70].エッチング中の表面にはa-C:F 膜が定常的な厚さをもって堆積する,その定常状態に達する機構が,サイト形成にあるのか,飽和吸着にあるのか,その解明は不十分であった.このことは,表面が定常状態へ遷移する過程を時間変化を含めるダイナミックな解析をおこなった上で理解することが課題であった.

 次に,エッチング速度がa-C:F 膜厚に逆比例する説明においてF が膜中を拡散するためと説明されている.しかしながら,a-C:F 膜が厚くなることでエッチャントであるF の拡散が低下するというモデリングは現象を適切に表現しているとは考え難い.その理由としてa-C:F 膜は数nm の厚さであることに加え,下地基板がエッチングされている間に,その表面に堆積する極めて薄い膜の中の拡散輸送が反応を律速するということは考えにくいからである.

 実効的なバイアスが基板に印加されている状態では,イオンが照射されている系である.この中で同時に,気相からラジカルなどが表面に入射して,どのように表面反応に影響しているのかは不明である.また,ラジカルの付着によって変性した表面にイオンが照射される際,この表面変性の効果はどのように表れるのか,など細かい点は依然不明のままであった.

 以上のことから,表面反応モデリングをより現実に則したものとするために

1. 堆積性粒子の吸着はラングミュアモデルが相応しいか,

2. a-C:F 膜の堆積メカニズムは,

3. エッチング速度の決定はF の拡散律速か,

4. イオンエネルギーの影響,

などの点がまず解決することが望まれた.

1.8 本論文の構成

 半導体素子製造の発展は微細加工技術が大いに牽引してきた.今日では,まさに分子・原子レベルでの素子寸法に達しており,使用する材料の特性を多様に活かす形となっている.この実現には開発段階・製造段階のいずれにおいても,分子・原子レベルでの構造寸法の加工制御・材料の電気的,機械的,様々な物性制御がますます重要となっている.筆者は,この背景を踏まえて製造プロセスにおいて原子・分子スケールの加工制御,物性制御に関する研究を行ってきた.本研究では,分光法を駆使することでプラズマプロセスにおける表面反応を明らかにすることを試みた.

 本章では,製造プロセスの現状と課題の検討を行い本研究の背景について述べた.絶縁膜としてのシリコン酸化膜の微細加工技術が鍵であり,このシリコン酸化膜のエッチングにはフルオロカーボンプラズマが使われる.このプラズマエッチング中の表面にはフルオロカーボン膜を堆積しながらエッチングが進むといった複雑な化学反応を生じている.この表面に堆積する膜はエッチングしたくない部位のエッチングは抑制に働いているが,被加工物のシリコン酸化膜上ではエッチングされると同時にうまく除去されている.結果的に実現することが分かっていても,所望のエッチング特性(形状や加工速度など)を得るには,大変な試行錯誤を必要としていた.そのため,効率的な反応制御の観点から反応の理解が必要となっている.この反応理解を進めるにあたり,筆者は分光法を用いた物理化学構造解析を駆使して研究してきた.

 このフルオロカーボンプラズマによりシリコン酸化膜のエッチング反応の理解を進める上でエッチング中表面のその場観察は技術的な困難さから多く施されてこなかった.そこで,このエッチング中表面のその場観察が第一と筆者は考え,この目的のために,その場観察に最適な観測手法を赤外分光法と電子スピン共鳴法を用いて独自に開発してきた.この開発を通して,フルオロカーボンプラズマエッチング中の表面を赤外分光法,気相中のラジカルをレーザー誘起蛍光法,表面の化学結合をX 線光電子分光,表面ダングリングボンドを真空搬送電子スピン共鳴法などの測定手法を駆使して調べてきた.まず,実験結果について述べる前に,開発してきた測定手法について第2章でまとめて説明する.

 続いて第3章と第4章において,フルオロカーボンプラズマによるシリコン酸化膜のエッチング反応の解析結果について説明する.第3章においてはフルオロカーボンプラズマ気相中の活性種であるラジカルとイオンと表面との相互作用について明らかにする.CFx ラジカルの表面近傍での振る舞いとポリマー堆積過程に着目し,これまでは気相と表面は別々に観察されてきたが,本研究では二次元レーザー誘起蛍光法によるラジカルの表面近傍の密度分布と,赤外分光法による表面のフルオロカーボン・ポリマーの堆積過程の同時測定に成功した.その観察結果から新たにわかったことは,特に高密度プラズマ(ne ≤ 1011cm−3)では表面近傍のラジカル・フラックスだけではポリマー堆積が決定されないことである.このことから,過去の提唱されたポリマー堆積モデルの適用範囲が限定されていることを明確に示した.

 次に,質量分離されたフルオロカーボン・イオンビームを照射できる装置を利用して,プラズマとは別にイオンのみをSiO2 に照射した時の表面変性について明らかにする.イオン照射された表面をX 線光電子分光法でその場観察した結果から,CF+ イオンといったF の少ないイオンで照射すると表面変性にドーズ依存が強く見られることがわかった.照射開始初期には表面にC が蓄積しながらSiO2 のエッチングが進行する.次第に,累積照射(ドーズ)量が増すに従い表面のC 量が増加し,約1017cm−2 がドーズされた後に,表面のC 量はある臨界値に達し,エッチングが停止して連続的なフルオロカーボン膜の堆積に急激に転じることを見い出した.この結果からプラズマからの入射種と表面変性の具合によって表面反応の様相が一変する現象について明らかにした.

 第4章ではエッチング中の表面をその場観察結果について説明する.ここでは,赤外分光法によってシリコン酸化膜のエッチング中の表面のその場観察に成功した.新たに観察結果から示されたことは,シリコン酸化膜のエッチング進行中の表面にフルオロカーボン・ポリマー膜が堆積する過程を観察して,この堆積過程のダイナミクスを解析することにより,ポリマー膜堆積挙動を明らかにしたことである.さらに,エッチング中の表面近傍の内部側(サブサーフェース)に形成されるダングリングボンドについて調べる手法を電子スピン共鳴法を用いて開発した.ダングリングボンドは反応活性であるために大気中に暴露すると消失してしまうため,真空中で試料を搬送して電子スピン共鳴法による観察を行う装置によって,エッチング中に形成される表面ダングリングボンドの観察に成功した.

 最後に,第5章では全体をまとめ,今後の展望について述べる.



Last-modified: 2020-12-04 (金) 17:30:41