2016年12月16日毎月第三金曜日開催の第17回サイエンスの扉・サイエンスカフェを、「プラズマ医療科学の挑戦~(題)~」と題して担当した。何を話すのか、考えて続けて、副題の(題)の部分を事務局に回答せずに、当日を迎えてしまった。これも、第6回開催頃までこのタイトルを各講師が引き続いてシリーズ的に使用しており、各自副題で各講師の研究内容を紹介していたからである。終わってみて、何を話したのかを振り返り、副題を考えて見たい。
久しく、プラズマ医療科学の創成について、この会でも話が詳しくでてきていなかったので、改めてプラズマ科学と医科学の両面から、「みる」、「つくる」、「わかる」、「つかう」という領域で、プラズマの装置から生体分子との相互作用、医療面での安全性などを明らかにすることで、学理としての成果と医療としての成果を目指して、このプロジュクトが2012年に始まったことを紹介した。2014年時の中間評価では、プラズマ科学の粒子計測や微細加工を発展的に医療プラズマの確立され基盤構築に至り、医科学の面でも工学応用の検査・診断技術、創薬・療法の開発が発展した。これもプラズマ医療科学が創成され、プラズマと生体の相互作用の定量理解が進み、理論構築・体系化がなされたからです。今後、ますます実用化の道筋をつけ、節目を迎えている。
プラズマと生体分子との相互作用について、これまでのアプローチからプラズマを構成する粒子(電子、イオン、ラジカル)に、光や電磁界が及ぼす影響を、個別にみてきた。生体分子への作用を考えるには、細胞を隔てる膜と細胞の周囲の液体の存在を見逃すことができない。多くの反応は、プラズマから液体に作用して、さらに細胞膜を通過して細胞内に存在する生体分子への影響が顕れるからである。それら反応には、気相から液相への活性種の溶解や液相内での化学反応、攪拌・拡散など物質輸送、細胞膜表面でのレセプターやイオンチャネルを介した膜輸送が関わっている。多くの疑問がのこるものの、その中でもプラズマが照射された液体中の活性種の分析は進みつつある。新しい見地が必要であったのか、過去からの理解が答えてくれそうな問題であるが、プラズマが関わる反応は必ずしもそうとはいえない。なぜなら、速度論支配の化学反応を生じているため、生体に影響を及ぼす反応状態を分かっているわけではないからである。このことは、化学平衡を考えるとわかりやすい。化学平衡では、例えば 物質が生成される「つくる」反応と消費される「つかう」反応が進み、しばらくたつと反応速度が等しい状態に達した場合をいる。正味、あたかも作る反応と使う反応が均衡するので、エネルギー的にも安定化して状態は変わらないように見られる。ただし、この時反応は継続していることを忘れてはならない。このような状態を化学平衡と言い、反応の条件が変われば、この平衡状態は移動し、特に平衡移動と言う。
放電プラズマも点いているときは、安定して点いているように見られるが、これも高圧電源からの電力で電子が生まれる反応と、種々の壁での消滅などの電子が消える反応が拮抗するからである。これは、難しい見立てをすれば、内部にエネルギーを取り入れ、一旦エントロピーを減少させて、外に代謝している系を構成しているともいえる。このような考えは、非平衡熱力学の基本となっている。(プリゴジン「現代熱力学~熱機関から散逸構造へ」朝倉書店)
ところで、ヒトを含む動物の寿命とカロリー摂取の間に相関関係があるのではという報告がなされた。最近の巷でも、メタボ体型や糖質制限などの健康ワードが聞かれる。少し古くなるが2010年の日経サイエンスにKirkwoodが執筆した「なぜ永遠に生きられないのか」という記事がでている。その中で、動物の種における平均寿命は栄養失調では著しく短いが、カロリー摂取を過剰に行った場合も短命になるという結果が見られる。その説明には、カロリー、つまりエネルギーを摂取した後、生体の「維持と修復」につかう分と、「成長と生殖」に使う分をバランスさせて、寿命に向けて老化を進めていく。そのため、摂取が多いほど、成長と維持のバランスも進みが早く、早く寿命に達してしまうため短命に終わるという考えがなされている。すなわち、カロリー摂取をほどほどに痩せているぐらいの方が長命になりやすいと考えられているのである。
池田の本にやさしく書かれているが、生きている中で数知れない損傷を受けているため、細胞の修復に多大なエネルギーを使っている。修復の限界があるから、生殖・繁殖による子孫を残して種の維持を優先した結果、寿命を迎えるとも考えられている。(池田 清彦「なぜ生物に寿命はあるのか? (PHP文庫) 」)
この問題は、よく考えても難しい。なぜなら、実験をしていくときに、対象とするサンプルは、どのような状態なのか、時間軸の上で考えていく必要があることを暗示している。プラズマ医療科学で考えるプラズマと生体の相互作用を考える時、どの時点で作用を考えているのか?などなど
改めて、生物の「時間の流れ」に気を留める。どこがはじまりで、どこがおわりなのか。
放電プラズマを照射して病原菌を滅菌する、がん細胞を殺傷するなど、プラズマが細胞に死をもたらすと説明してきた。実験プロトコル(手順)では、明解な生死判定キットの結果によって細胞生存数を測れるのであるが、どうしてプラズマが細胞に死をもたらすのか?について、良くわかったとはいえない。
生物学では当然習う「細胞死」についての知識も日進月歩で進展がある。とはいえ、基本的なところは変わっていないだろう。
一般に死という言葉から連想するヒトの死とは、細胞死は意を異にすると言って過言でもない。
つづく