2020年12月
Blog20201206
2020年12月6日メモ
日経サイエンス 2021年1月号 特集:科学の近代史 発見と過ちの175年
革新をもたらしたテクノロジー 予想外の要件 N. オレスケス/E. M. コンウェイ
原題 The information manipulators は 本家Scientific American 2020年9月の記事 「科学者にとって新発見がなされた後に技術的ブレークするが起こるので,科学は人類に役に立つのは自明である.」
物質とエネルギーを動かすことによって情報を解き放った.
電気と通信,情報化社会(コンピュータ,インターネット)の発展について書かれており,一方で原子力と宇宙旅行は普及したかといえば現実的にはなっておらず,これからも期待が薄い.
今後,「曖昧になる境界線」が指摘されている.消費者と生産者,職場と家庭,公と私,アマチュアとプロ,など双方化をもって,境界線はますます曖昧となってくるだろう.メディア(新聞,ラジオ,テレビ)は,ウェブ(バーナーズ=リーの発明)の登場から大きく変化している.
感染症との終わりなき戦い コレラから新型コロナまで T. ルイス
予防と治療には 貧困が最大要因である.農業から都市化,気候変動などが関連している.
公衆衛生(Sanitation)は発展したにもかかわらず,2003年SARS,2012年MERS,2019年COVID-19と新しい感染症が蔓延し,
BurnetとWhite「伝染病の生態学」での予言は的中している.
Richard Wilkinson と Kate Pickett は「不平等な社会は不健康な社会」と言い,「国の最富裕層と最貧困層の収入格差が大きいと平均寿命が短く,慢性疾患の罹患率や,死亡率が高くなる」と指摘している.
収入,医療,住宅などの充実は感染耐性を上げている.19世紀水道や道路が整備された.COVID-19の直後にも都市空間は大きく変わっている.自動車は自転車に,駐車場はカフェのテラスに,リモートのためのブロード通信網が整備されている.「大恐慌の後にニューディールが訪れる」
キメラ抗原受容体発現T細胞治療(CAR-T)は高額な治療法であるが,有望視されている.
見えてきた大絶滅の原因 太古の地層からの警告 P. ブラネン
悠久の時間(ディープタイム) 炭素循環の乱れが大量絶滅をもたらした.
「Lifespan 老いなき世界」 シンクレア/ラプランド
エピゲノム情報の喪失,老化の情報理論を唱えている.ストレスシグナルを制御し,防御システムを活性化する方法が近い将来実現するだろう.
「研究を深める5つの問い」宮野公樹(講談社,2015)
学問領域が細分化される中,本当に『いい研究(仕事)』とは何だろうか?学術的成果であったり,社会的成果であったり,必ずも論文となって,論文数だけで測れるものだろうか?多くの分野に論文があれば,異分野への挑戦意欲の表れであったり,本当に難しいことを言葉で表しきれるのか,装置ありきで反証可能性についての議論が疎かになっているのではないか?など危惧される.
報知新聞1901年に『みんなでつくる未来予想図』という記事があり,そこでの「二十世紀の豫言」が掲載されていた.これにならい,2013年著者が「100年後の社会」として医療,遺伝子治療,コミュニケーション,社会,人間の精神的進化という項目を挙げている.モノ中心の所有による幸福から,将来は「超技術」や「アンチ技術」といったことに幸福感を見出すのではないかとまとめている.
みんなでつくる未来予想図(リンク) この中に,「二十世紀の豫言」が記されている.
- 電気と植物
- 電気の力によって野菜の成長を促す技術が登場し、空豆をミカンほどの大きさにしたり、緑や黒の菊・牡丹・薔薇を咲かせたり、北の大地に熱帯性の植物を育てることも可能となる。
という項目もある.1900年には電気に期待が大きく,正にその通りに発展してきたといえるだろう.
「『複雑ネットワーク』とは何か」増田直紀/今野紀雄(講談社,2006)
「複雑ネットワークの科学」(産業図書)やバラバシの「ネットワーク科学」(共立出版)を分かりやすく解説してくれている.
近代グラフ理論の幕開けと呼ばれるワットとストロガッツの原著.
Collective dynamics of 'small-world' networks.
Watts DJ, Strogatz SH.
Nature. 1998 Jun 4;393(6684):440-2.
生化学にみる代謝ネットワークの話題 バラバシ の原著.モデュールが見られる階層ネットワーク.
Hierarchical organization of modularity in metabolic networks.
Ravasz E, Somera AL, Mongru DA, Oltvai ZN, Barabási AL.
Science. 2002 Aug 30;297(5586):1551-5.
関連記事
基本として,スモールワールドからスケールフリーを理解しなければならない.
「免疫の守護神 制御性T細胞とはなにか」坂口志文(講談社,2020年10月)
制御性T細胞の発見者であられる坂口先生自身の解説.
胸腺から分泌されているT細胞がないと,自己免疫疾患を引き起こす.
免疫の解説に「もっとよくわかる 免疫学」(河本宏)が引用されている.
「神経とシナプスの科学」杉晴夫(講談社,2015)旧版(2006)
ガルバニとボルタによる生体電気現象についての解説から始まり,加藤元一,田崎一二らの日本の研究の紹介がされている.
気になるワード:極性興奮の法則,期間曲線,活動電流(二相性,単相性),経板
脊椎動物は,有髄神経となっており,神経繊維は髄鞘(電気絶縁性)に包まれている.約2mmおきにランビエ紋輪によってくびれている.一方,無脊椎動物は巨大神経繊維をもっており,髄鞘はない.
ホジキン,ハクスレー,イオンチャネルを介したNa,K,Caの膜内外にやりとりし電池を形成する説明がなされている.興奮性と抑制性の興奮による神経電位と神経電流の変化が見られる.
ニューロンとシナプス.
「脳と心の量子論」治部眞理/保江邦夫(講談社,1998)
エルウィン・シュレディンガーは「生命とは何か」を著作し,デカルトの機械的宇宙論,心身二元論とは異なる視点を与えた.アルバータ大学の梅沢博臣,高橋康は,心とは脳の記憶によって生まれる「場の量子論」で説明される対象であり,「量子場脳理論」を唱えた.元々の仕事は「場の量子論」であり,坂田昌一の研究グループに属していた.
脳と心のバイオフィジクス 日本生物物理学会(1997)など,
Blog20201213
2020年12月13日 メモ 図書館で
複雑ネットワーク入門 今野紀雄 井手勇介 (講談社,2008)
複雑ネットワークの科学 増田直紀 今野紀雄 (産業図書,2005)
光・物質・生命と反応 上,下 垣谷俊昭 (丸善,1998)
マイクロ流体分析 渡慶次学 (共立出版, 2020年10月)
人工知能のための哲学塾 (第3部) 未来社会篇 響きあう社会、他者、自己 三宅陽一郎,大山匠(BNN,2020年10月)
応用数学関連
群,環,体,束,圏 (Group, Ring, Field, Lattice, Category)
代数 幾何(集合,位相) 解析(関数,微積分)
William Stallings, Cryptography and network security, 7th ed. (Pearson) Algebra Figure 4.1 Groups, Rings, and Fields
Chemistry of the elements, 2nd ed. by Greenwood (1997)
例えば,窒素は第11章 p.406~472 に詳しく記載されている.
11.3 Compounds.
- Nitride
- M-N (M is an element)
- Diimide or Diazenyl or Azo
- (NH)2 R'-N=N-R
- Nitrido complex
- M≡N3, M=N=N, M≡N
- Azide (anion)
- (N3)- Azido is a form of -N3 , M-(N=N=N) <-> M-(N-N≡N)
- pentazenium (cation)
- N5+
- Pentazole
- HN5 five membered ring (N1N=NN=N1)
Hydrides of nitrogen. (Imido NH, Amine NH2, etc.)
- Ammonia, Ammonium (cation)
- NH3, NH4+
- Hydroxyl amine
- NH2OH
- Hydrazine
- N2H4 (F. W. Schmidt Hydrazine and its derivatives ... (1984).)
- Hydrogen azide
- N3H
11.3.5 Halides of nitrogen.
11.3.6 Oxides of nitrogen.
- Nitryl azide
- N4O2, N3NO2 (N=N=N-NO2)
- Nitrogen oxides
- N2O, NO, NO2, N2O3, N2O4, N2O5, NO3
- Nitrous oxide (N2O), nitrogen(0,II) oxide
- Nitric oxide (NO), nitrogen(II) oxide, or nitrogen monoxide
- Nitrogen dioxide (NO2), nitrogen(IV) oxide
- Nitrogen trioxide (NO3), nitrate radical
- Dinitrogen dioxide (N2O2), nitrogen(II) oxide dimer
- Dinitrogen trioxide (N2O3), nitrogen(II,IV) oxide
- Dinitrogen tetroxide (N2O4), nitrogen(IV) oxide dimer
- Dinitrogen pentoxide (N2O5), nitrogen(V) oxide, or nitronium nitrate [NO2]+[NO3]−
- Nitrosylazide (N4O), nitrogen(−I,0,I,II) oxide, oxatetrazole |N4O (N=N=N-N=O) (A. Schultz Angew. Chem. 32 (1993) 1610)
- Trinitramide (N(NO2)3 or N4O6), nitrogen(0,IV) oxide
- Pernitric acid
- see oxoacids of nitrogen
11.3.6 Oxoacids of nitrogen.
- Hyponitrous acid
- H2N2O2, HO-N=N-OH <-> HO-N(H)-N=O
- Nitrous acid
- HNO2
- Hyponitric acid
- H2N2O3, HO-N-NO2
- Nitroxylic acid (tetrahydroxy hydrazine)
- H4N2O4, (HO)2-N-N-(OH)2
- Peroxinitrous acid (peroxynitrite)
- HNO3, HONOO
- Nitric acid
- HNO3
- Peroxonitric acid (peroxynitrate) & anion
- HNO4, HOONOO, ([N+](=O)([O-])OO)
Anions
- Nitroxide (NO−)
- Nitrite (NO2−)
- Nitrate (NO3−)
- Orthonitrate (NO43−)
- Hyponitrite (N2O22-)
- Trioxodinitrate (N2O32-), or hyponitrate
- Nitroxylate (N2O44-)
- Dinitramide (N(NO2)2- or N3O4-)
- Peroxynitrite (ONO2−)
- Peroxynitrate (ONO3−)
Cations
- Nitrosonium
- NO+
- Nitronium
- NO2+
Heterocyclic compounds of carbon and nitrogen
- Pyrrole
- C4H4NH five membered ring with one nitrogen atom in position 1
- Diazole, Pyrazole
- C3H3N2H five membered ring with two adjacent nitrogen atoms
- Diazole, Imidazole
- C3H4N2 five membered ring with two non-adjacent nitrogen atoms
- Triazole
- C2H3N3 five membered ring with three nitrogen atoms
- Tetrazole
- CH2N4 five membered ring with four nitrogen atoms
- Pentazole
- HN5 see above
- Benzimidazole
- an analog with a fused benzene ring and imidazole
- Dihydroimidazole or imidazoline
- an analog where 4,5-double bond is saturated
- Oxazole
- an analog with the nitrogen atom in position 1 replaced by oxygen
- Thiazole
- an analog with the nitrogen atom in position 1 replaced by sulfur
光化学反応による水素の生成とN≡Nの切断
Photo-electrochemical water splitting (PEC), Aqueous electrolyte
Mott-Schottky theory
$$\frac{1}{C^2} = \frac{2}{q \epsilon A^2 N_d} \{ V-V_{fb}-\frac{kT}{q} \} $$
の関係より,Electrochemical impedance spectroscopy (EIS)より求めた,インピーダンスの虚部Zから電荷を求めて,ドナー濃度nd,電極面積Aから,半導体/電解質界面でのフラットバンド電圧Vfbを求める.
アゾベンゼン(Ar-N=N-Ar)のニトロソ(O=N-Ar-N=N-Ar-N=O)が熱により,ジニトロソ(-Ar-N(O)-N(O)-Ar-)となる.
pyridin-N-oxyl ラジカルカチオンは,電気化学(ET),水素引き抜き(HAT),プロトン関与(PCET)などの経路で水素原子が取り除かれて生成される.この時,水は過酸化水素を生成する.逆では,酸素や過酸化水素が水に還元される.
多体のシュレディンガー方程式の(数値的な)解き方 (量子化学計算)
ハートレーフック(HF)からMoller-Plesser(MP)摂動法が開発され,その後,結合クラスター(CC)が使われている.
$$\left|\Phi_{cc}\right\rangle = e^{\hat{T}} \left|0\right\rangle$$
としたとき,Tは指数クラスタ演算子であり,この方程式の行列に含まれるランクが,1体の時S,2体の時D,3体T,4体Qとする.通常,Coupled-cluster singles and doubles(CCSD)と呼び,3体を含めるとCCSD(T),などと呼ばれる.指数ではなく線型で置いた場合が,Configuration interaction(CI)のこととなる.
Origin and evolution of the atmospheres of early Venus, Earth and Mars
Astron Astrophys Rev (2018) 26:2 DOI
この総説の 5章は Origin and evolution of atmospheric N2 である.
- ice line
- 水の昇華温度が約150Kなので,太陽から2.7 au (天文単位,太陽と地球の距離の2.7倍)と離れると水の氷の天体が顕れる場所のこと
- clathrate
- クラスレート,包摂構化合物 メタンハイドレートなどを指す.
- chondrite
- コンドライト, ケイ酸塩を主成分とする隕石.炭素質のものもある.
- Hadean eon
- 冥王代,地球の40億年前より以前の地球誕生の時代のこと
水とアンモニアとメタンが氷の状態で地球創生期には存在していたと考えられている.気体は水素とヘリウム.
Blog20201227
2020年12月26日 メモ 図書館で
ネットワーク・カオス 中尾裕也, (コロナ社,2018)
力学系の現象を差分方程式で表す離散時間で,または微分方程式で表す連続時間でのそれぞれの表現を基にして,非線形のダイナミクスで見られる解析について説明している.非線形システムのほとんどは,エネルギー散逸を伴う系である.すなわち,初期状態での解は,次第に時間の発展と共にアトラクタに収束する.このアトラクタが,平衡点なのか,閉曲線なのか,準周期解なのか,ストレンジアトラクタになるのか,は対象とするシステムのダイナミクスによっている.離散系では,状態変数の写像の方法使われる.これは,状態変数という情報のネットワーク科学となっている.連続系を,離散フーリエ変換で表したときに,自己相関関数とパワースペクトルの表現が可能である.より幅広く拡張すると,相空間を導入し,状態変数の空間(集合)について,系の安定性などを調べることができる.
物理化学Ⅲ 分子分光学と分子統計力学 (丸善,2018)
東大工学部教程の化学分野の熱力学,統計力学の教科書.分子の量子力学的な理解から,内部エネルギーと分配関数による物質の熱力学的な性質との対応について解説されている.
Bioinorganic chemistry. Eiichiro Ochiai (Academic Press, 2008)
落合栄一郎(カナダ)は「生命と金属」の著者で,金属元素の活性中心をもつ酵素触媒反応に示唆を与える.
Chapters 4 acid-base, 5 oxidation-reduction, 6 oxygenation, and 7 free radical reactions
An introduction to system biology. 2nd ed. Uri Alon (CRC press, 2020)
システム生物学のドライの手法について基礎を説明.
遺伝子発現から翻訳,タンパク合成のプロセスの制御について,数式を使って説明し,そのモデル化のやり方を紹介.
メモ Systemsと複数になっている.生命現象をシステムの動作として理解するためシステム工学の手法を取り入れている.システム工学の時に,単独システムに特定するのではなく,複数のシステムに関して共通のシステム動作を取り扱うということから複数にするのが慣例らしい.
RIKEN news 2020-12
主体感 自らの意思で行動して,その行動をコントロールすることで,周囲に意図通りの影響を与える,と感じること.
ベイズ理論 事前の知識に基づき,ある事象が起きる確率を推定する統計学
カオスの縁 規則的と非規則的に現象が変わるちょうど境界
雪崩現象 コーシー分布の確率事象を脳の神経ネットワークに取り入れた時にネットワークパスが雪崩的に活性化すること
RIKEN news 2020-12
バイオリソースセンター
品種改良や化学肥料に頼らず 持続可能な作物生産
化学肥料や農薬 環境汚染や土壌の劣化,健康被害
作物の収量や品質 遺伝子組み換えによる品種
菌根菌(カビの一種)や根粒菌(細菌) アーバスキュラーをミナトカモジグサとの組み合わせで実験
リービッヒ(1840)無機栄養説
植物-微生物-土壌のサイバー空間 マルチオミクス解析 根圏の微生物叢,土壌の微生物叢 フィールドアグリオミクス (フィジカル空間)
リン酸(コリン)とアミノ酸(アラニン)が共生環境で活性化
RIKEN news 2020-12
核図表 魔法数
フレネル回折と共鳴の類似性
カーボンフォレスト 26時間成長で14cmのカーボンナノチューブを合成 杉目恒志(ひさし)
ムーンショット 困難なものの実現すれば非常に大きな影響を与え,人々を魅了する野心的な目標の実現
数理科学 2021-1
時空 時間と空間の統一 物質が時空をつくり,また運動する場を提供する