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高アスペクト比エッチングにおけるプラズマの挙動と表面反応の制御

第5章 ドライエッチング技術の開発動向とプロセス制御

石川健治(名古屋大学) 2023年5月

1.はじめに 高アスペクト比エッチングの目的

 半導体製造プロセスの工程フローでは,最初に基板の上に機能性材料を製膜した後,フォトリソグラフィー技術でレジストマスク材料にパターンをさらに形成した後,そのレジストパターンを元に機能性材料をエッチングにより除去する微細加工プロセスを行う.このパターン転写工程で,機能性材料の厚さに比べて十分大きい寸法のパターンを加工する場合には,パターンの寸法の大きさが多少ズレてもあまり気にならない.一方で,パターンの寸法が微細化されれば,被加工材料の膜厚方向への加工が必要となる.膜厚方向に方向性加工や異方性加工といった加工方法が要求されるようになった.(図1)

 微細化の限界となる最小寸法をクリティカルディメンジョン(Critical dimension: CD)と呼ぶが,パターン転写をした膜のCDの実現のために,ウェットエッチング技術からドライエッチング技術への移行が進んだ [1].マスクのパターンのCDをもつ間口の寸法から,加工していくと,被加工の機能性膜の深さ方向で,加工寸法の断面は寸法ズレを最小化させたい.その技術が開発され,物理寸法以外にも,マスクの他に露出する材料も削らない,材料間のエッチングレート差を確保する技術が重要視されている [2].

 本節では,加工形状のアスペクト比を高めるためにプラズマの挙動と表面反応についての観点を紹介し,この高アスペクト比エッチングに関するプロセス制御について説明する.

2.先進半導体デバイスの対象

 まず,高アスペクト比エッチングが利用される先進半導体デバイスの対象について紹介する.集積回路の作製では,シリコン基板上にトランジスタを形成し,その上層に絶縁膜で囲んだ配線構造を形成する.典型的な用途である相補型電界効果トランジスタ(CMOSまたはCMOS-FET)作製に,高アスペクト比エッチングの技術が要請されてきた.他にも,ダイナミックメモリのキャパシタセル,3D-NANDフラッシュメモリ,イメージセンサなどのマイクロ電気機械システム(MEMS)の製造に,この技術が重要な位置付けとなっている.

2-1.相補型電界効果トランジスタ(CMOS-FET)

 MOSFETの作製は,シリコン半導体(Si)上にゲート絶縁膜となる薄膜のシリコン酸化膜(SiO2)を形成しておき,ゲート電極となるポリシリコン薄膜(poly-Si)を堆積してからフォトリソグラフィーによってゲートのパターンをもつレジストマスクを用意する.そのマスクパターンを元にpoly-Siを加工形状の断面が垂直に,また下地のSiO2に損傷を与えずにエッチング除去する.この形のデバイスは,Siプレーナートランジスタと呼ぶ.

 技術開発のポイントとして,デナードの比例縮小(スケーリング)則に従い,ゲートのパターンCDをより小さい寸法にする.このデバイスのスケーリングによって,トランジスタの駆動電流は,ゲートのパターン寸法でゲート長さに反比例とゲート幅に比例して上げることができる.そして,デバイスの設計(マスクの寸法)通りにpoly-Siが加工されることが求められる.このように物理的な寸法の制御のみならず,SiO2やSi基板に損傷を与えてはならず,化学的な性状の制御が必要になる.すなわち,デバイス劣化という問題の発生を避けなければならない.そのためには,poly-Siのゲート加工の例で,高アスペクト比エッチングを実現するためにも,どのようなガスでエッチングをするのか,というガスケミストリの選択から,ゲート加工時のpoly-Si側壁保護,チャージングダメージなどに至るまで,様々な考慮がなされている.

 2010年代になると,プレーナートランジスタからフィン型トランジスタに移行が進んだ.この背景には,10nm台のノードになるとSiチャネルのプレーナー型のゲートでは電流駆動力が上がらず,その理由にはゲート(電界)の支配力が弱まること,チャネルの移動度が落ちることなどが挙げられた.このことは,ショートチャネル効果と呼ばれ,その対策が必要であった.その解決のために,Si基板を掘り下げて,フィン型のチャネルを作製して,そこにゲート電極を作製するようになった.(図1)

 また,リソグラフィー技術がArFエキシマレーザー以降,その進展が滞ったこともあり,20数nmのCDをもつパターンをフォトリソグラフィー技術に頼らず作製するようになった.ダブルパターニングと呼ばれ,薄膜堆積技術と異方性エッチング技術を組み合わせて,ダミーパターンの側壁の膜を転写する方法となり,それを繰り返すマルチプルパターニング技術が使われるようになった.(図2)2010年代は,プラズマ技術によるマルチプルパターニングが微細化の牽引をしてきたことになる.ともかく,このパターンニング技術を最大限使って,フィン型チャネルが作製されている.他方,このフィン型FETのゲート電極の加工にはフィンの上部から下部に至るまで,ゲートのパターンを正確に転写しなければならない.このためには,既に削った部分は,それ以上削らずに,削りたい材料だけを削り続けることが求められる.すなわち,エッチングの材料に対する選択比と呼ばれる指標が重要であり,高い材料選択比が求められる技術の開発が進んでいる.

2-2.ダイナミックメモリのキャパシタセル

 集積回路で重要なデバイスの一つにダイナミックランダムアクセスメモリ(DRAM)も挙げられる.これは一次的に情報をメモリするために使用し,電源が切断されると消えてしまう型のメモリである. Si基板面積辺り,もっとも高集積化できるデバイスである.その理由には,トランジスタとキャパシタをそれぞれ一つ(1T1C)もつ最も簡単な構造で良いためである.最初は,1T1Cの名の通りトランジスタとキャパシタをレイアウトしていたが,現在では非常に複雑な作り方で,ほぼトランジスタの上にキャパシタをつくり込むことになっているが,プログラムを実行するノイマン型コンピュータには欠かせないデバイスである.

 この作製では,トランジスタのチャネルを基板側に掘りこみ,3次元化されていること,キャパシタはシリンダー型やピラー型として高アスペクト比をもつ円筒形状の面につくり込むことが,行われている.(図3)そのため,非常高いアスペクト比をもつエッチングなどのプロセス技術の牽引役を担っている.

2-3.フラッシュメモリ

 フラッシュメモリは,電源を切ってもメモリ内容を保持できる不揮発メモリの一種であるが,その特徴は絶縁膜で挟んだフローティングゲートに電荷を蓄積させておき,メモリを構成することが特徴である.その構造は電界効果トランジスタそのものである.ゲート電極の間にトンネル絶縁膜で挟まれた電荷蓄積用の電極が設けられている.

 更に,このトランジスタで多ビットのメモリの回路を構成する時に,Siのチャネルを列べて,書込や消去を接続された多ビットのトランジスタで一括して行う方法が発明された.このように回路を構成するメモリをフラッシュメモリと呼び,特にNAND(NOT回路とAND回路)を構成することで,トランジスタの集積度を上げることができてメモリ容量の増大に貢献した.このフラッシュメモリにも微細化を進めると,ゲート辺りの電荷蓄積量が低下して,メモリの動作が不安定となってしまった.その解決策の多くが取り組まれ,その中でもデバイスの3次元化技術が開発されてきたが,現在では“ビットコスト比例(BiCS)”法が主流となっている [3].

 BiCSの方法では,多ビットのトランジスタを共通のメモリホールに一括して作製する.トランジスタのゲートになる部分を,代理の膜を最初に設けておき,絶縁膜とその代理の膜を交互に積層し,その上にメモリホールの開いたパターンを用意して,上から一括して膜を抜く,高アスペクト比をもつ孔を形成(パンチ・アンド・プラグ)する.現在,シリコンの酸化膜と窒化膜を交互(ONONと呼ぶ)にするか,シリコンと酸化膜(OPOPと呼ぶ)の二種類が使われている.そして,開けた孔にフローティングゲートやトンネル絶縁膜,Siチャネルを後で埋め込む方法で作製する [4].他にも,代理の膜をゲート電極に置換して,その電極に配線するためにも,上からコンタクトのホールを形成する.(図4)これらのホールの形成など,エッチングには高アスペクト比の微細加工が求められている.

 BiCSの発想から製造コストが工程数と考えれば,なるべく多くのビットを一括で作製したいため,その結果,積層数が上がり,メモリホールなどへの加工深さが増している [3].このような背景から,異種材料が積層されている構造に高アスペクト比エッチングを施すことに困難があることと,絶対的な寸法で1μmの深さは優に超え数10μmレベルの深さをもつ高アスペクト比エッチング(>100)を目指している.

2-4.イメージセンサ,マイクロ電気機械システム(MEMS)

 スマートフォンの台頭で世界的な電子デバイスのマーケットが開け,小型で低消費電力なセンサーがMEMSとして作製されている.少し指向が異なる点としては,機械的な構造としてマイクロフォンのダイアフラム構造を形成したり,ラジオ波(RF)のフィルターなど,電子材料を加工する技術である.

 イメージセンサは,現在CMOS型となっており,Siのフォトダイオードを一つの画素として区切って作製されている.トランジスタに比べて比較的大きいが,この画素の微細化も進み,光の収集量を高めるために,Siのフォトダイオードの素子分離のためにSi基板に高アスペクト比エッチングが求められている.

2-5.配線

 配線が微細化されると電気抵抗が高くなるために,その断面アスペクト比を膜厚方向に高めたくなる.一方で,隣接する配線間の寄生容量が大きくなるため,充放電に費やされる電力が上がってしまう.これらのトレードオフを充たすアスペクト比の配線構造がつくられる.このような関係は,トランジスタの微細化が消費電力一定で動作速度を高めるスケーリング則と言うのに対し,配線の逆スケーリング則と呼ばれる.現在のところ,配線層数は十数層から二十数層になっており,製造コストの方が懸念材料であり,ビアとトレンチを一括作製するデュアルダマシン方法の導入となり,高アスペクト比をもつ配線構造を作製する要求はない.しかしながら,ウェハの貼り付けで3次元実装が本格化しており,基板の裏から表に通す配線は,寸法にして数十μmレベルであるが,その微細化が進んでいるのが,スルーシリコンビア(TSV)などと呼ばれる配線形成方法であり,Si基板の高アスペクト比エッチングの技術がなければ実現しえない.

3.高アスペクト比エッチングが生まれる歴史

 前述のデバイスの歴史に沿って,高アスペクト比エッチング技術も発展してきた.ドライエッチングの原理には,大別して(a)ラジカルエッチング,(b)物理スパッタリング,(c)反応性イオンエッチング,(d)側壁保護エッチングなどの現象に基づいている.(図5)これらはラジカルとイオンの反応,反応生成物の揮発や保護膜の形成といった観点を加味することで,等方的,異方的なエッチング,材料選択性といった点が理解できるようにある.すなわち,細かい表面反応には,膜の堆積と反応層の除去との相反する効果が同時に進行していると考えた方が良い.それら反応を総じて,正味の反応として,加工の進行面でエッチングを生じる.

 具体的な技術には二つの方向性があって,一つは上記したドライエッチングの原理を機能的分離して,順番にシーケンスとして実施,それを繰り返す,「サイクルエッチング」の方法である.もう一つは,プラズマのイオンを使って「反応性イオンエッチング」を制御する方法である.次に,これら二つの手法について説明をする.

4.高アスペクト比エッチングの手法(1)サイクルエッチング

 高アスペクト比をもつ構造を作製するために考案された方法で有名なものにボッシュプロセスがある.(図6)この方法は,シリコンを深掘りする際,最初にフッ素リッチなプラズマによってラジカルエッチングによってシリコンを少しだけ削り,その次ぎに膜堆積するフルオロカーボンプラズマによって薄くフルオロカーボン膜を堆積する.この二つの条件は,等方性で均一にマスクされていない表面で反応を生じる.その次ぎにイオンが表面垂直にエネルギーをもって照射される工程をおこなうことで,加工形状の側面には堆積膜が覆ったままで,イオンが照射される底面の堆積膜が除去される.この段階で,一段階深く入った表面を露出することができる.それから,最初のフッ素によりシリコンエッチングを繰り返すことで,マスク寸法を保ったままで,深い微細構造を形成する,高アスペクト比エッチングが実現する.各工程ステップでの役割がはっきりしているため,プロセスレシピの構築は比較的簡単であるが,サイクルで処理しなければならないため,プロセス時間が長めになるという課題はある.また,手法の原理的なところを反映して,断面形状には各サイクルでつくられる円弧を繋いだ段々形状,スキャロップと呼ばれる構造がみられる.この孔や溝に成膜する場合に段形状によって影になる部分が問題になるため,スキャロップを低減する手法ために,SF6とO2の混合ガスのプラズマなどで,次の反応性イオンエッチングをおこなう方法なども開発されている.

 以上サイクルエッチングでは,側壁を保護するステップと底部を除去するステップとのバランスをもって組み合わせることで,高アスペクト比エッチングが実現する.

5.高アスペクト比エッチングの手法(2)反応性イオンエッチング

 ドライプロセスでは,プラズマで発生させたラジカルやイオンによって表面反応を起こし,その反応生成物を揮発させて,排気することでエッチングを実現している.特に,プラズマに接する表面では,負に帯電することで,正の電荷をもつイオンが,そのポテンシャルに応じて,表面鉛直方向に加速されて照射されるため,マスクの影になる部分には,イオンが照射されないことで,イオン照射面での反応が際立つことにより,イオン照射の有無による異方的なエッチングが実現される.

 イオンの有無によって反応差を大きく生じる現象には,スパッタリングがあり,イオン照射によって固体内部の原子に運動量が転化され,衝突連鎖を起こすことで,表面方向の運動をもつ原子が表面エネルギーの束縛を破って,表面から原子放出をもたらす現象である.(図7)高エネルギーのイオンが表面に衝突することで,それが引き金となって基板材料の原子に運動量転化が起きる.マスクの影となる側面部にはイオンは照射されず,例え照射しても表面をかすめる斜入射となるので,ほとんど反射されることとなる.一方で,マスクの端部の角では,イオンは斜めから照射され,むしろ運動量転化(リコイル)によって表面離脱する成分を増やし,スパッタリングを起こしやすく,マスクの角が削られるという現象が起こる.

 同じようにイオンが入射する場合でも,化学的な作用が考えられる場合,イオンの照射辺りのエッチングで揮発する反応生成物が増加することがわかっている.この現象は1970年代に日本の細川氏の報告にまで遡ることができるが,ハロゲンを含むガスを導入して,スパッタリングをおこなうことで,そのスパッタレートが大きいと10倍以上に上がることが発見された [5].この時,スパッタされる基板原子の数は,入射するイオンの角度の依存性が低いこともわかった.その後,このような現象が,化学スパッタとか,反応性イオンエッチングという呼ばれる所以である.

 その後1980年代に米国のWinterとCoburnが実験で,シリコン表面にフッ素原子を照射した場合と,貴ガスイオンをエネルギー照射した場合では大したエッチング速度でないかかわらず,これらの効果を同時に,フッ素原子でハロゲン化しながら貴ガスイオンのエネルギー照射をおこなうと,エッチング反応が著しく高まり,エッチング速度が顕著に上がることを示した.すなわち,イオンとラジカルの相乗効果についての機構解明を為し得た [6].

 他の観点で,アルミニウムのエッチングでは,アルミニウムには表面が自然酸化膜で覆われており,保護された状態であるが,それが一度剥がれて露出すると塩素ガスの中では自発的にエッチングが進む.そのため,アルミニウムを垂直な断面形状をもって加工するためには,側壁を保護しながら,底部の被覆を除去して,反応性の塩素ガスに曝されるような反応系を用意する.

 異方性のエッチングで形状を制御するためには,イオンの照射による揮発除去を促進する効果,そして垂直形状をもつ側壁の保護する効果を得ることが肝である.

 さらに,研究が進むと1990年から2000年代に掛けて,シリコンの絶縁膜のエッチングの理解が進んだ [7].例えば,シリコン酸化膜を貫通して,基板のSiにコンタクトを作製したい場合には,高アスペクト比エッチングを行い,材料に選択的にSi面でエッチング反応を停止したい.この目的には,カーボンとフッ素を含むフルオロカーボンガスをもちいたプラズマが使われる.シリコン酸化膜を削る際に,フルオロカーボンイオンは,SiF4とCO、CO2の揮発物を生じることでエッチングが進行する.シリコンではカーボンが酸素で除去されなくなるため,フルオロカーボン膜が堆積して,材料選択的に保護膜を形成することができた.照射されるイオンの組成やエネルギー,表面のフッ化やフルオロカーボン膜の堆積などを制御することで,エッチングの反応の違いを使ってエッチング形状の制御を行うことができた.特に,プラズマ中で導入したガスが解離したりし,様々な種類のラジカルやイオンを生成し,イオンの組成によってもエッチングの反応が異なることが明らかとなった [8].例えば,CF3+とCF2+,CF+のイオン種ではフッ素の含まれる数が異なるが,その数に応じてSiO2のエッチング効果も異なっている [8].(図8)すなわち,イオンの組成まで考慮にいれたプラズマを生成するために,導入するガスの種類を変えることが行われている.例を挙げるとCF4からC2F6,C4F8,C5F8,C4F6などの使用がなされている.

 ここまで述べた反応性イオンエッチングについての要点は,ハロゲンを含む反応性イオンによるエッチングでは,イオンの有無の対比が大きく,イオンエネルギーを制御する技術も相まって,高アスペクト比エッチングの実現に大きく寄与している.さらに,イオンの入射角度の分布は形状に影響する.この観点からイオン密度は高いが,ガス圧は低い方が,背景ガスとの衝突散乱を生じにくいことで,低圧で高密度のプラズマを生成する技術,イオンを高エネルギーに加速できるプラズマ源などの装置が開発されている.

 詳細を理解していただくためにも,簡単にプラズマエッチングの原理についての説明を入れておく.

6.プラズマエッチングの原理

6-1.プラズマが使われる理由

 プラズマエッチングでは,まず,励起電力を低圧ガスに投入することでプラズマを発生し,電子衝突反応を起こすことで,原料ガスの電離,解離,励起,電子付着反応を生じ,さまざまなラジカルやイオンを生成する [9].ラジカルは熱速度で表面に拡散してきており,表面に付着したり,表面で反射したり,付着の後で表面を拡散し,基板の原子と反応する.

 プラズマを生成する反応容器の中に,被加工基板を設置すると,プラズマに接する表面にはイオンシースが形成される.被加工表面は,このイオンシースを介して,イオンがエネルギー加速して照射され,通常,この加速は表面垂直方向に発生している電界に沿って行われる.

 エッチング表面には,ラジカルとイオンが供給されており,ラジカルの組成,イオンの組成とエネルギー,そして両方の供給量として単位面積,単位時間辺りの量となるフラックスが重要な因子となる.更に,イオンのエネルギーは単色であることはなく,そのエネルギー分布関数,また入射角度についても角度分布関数が重要な因子となる.

6-2.物理的スパッタリング

 一番単純な系では,イオンの照射によってエッチングを生じ,そのエッチング量はラジカルのフラックスによって促進が得られるという系である.話しを簡単にするために,エッチングレートではなく,一つのイオンが起こす反応として反応収率に正規化して考える.エッチング反応収率は,入射イオンのエネルギーに対して,スパッタリング理論に応じた変化を示すことが多い [10].ある閾値エネルギー以上でないとエッチングされず,それ以上では基板材料原子への運動量移行的に進むので,入射エネルギーの平方根をとった運動量に比例して増加し,再び高いエネルギーではイオン注入的に振る舞うため,エッチングの反応収率には低下が見られる.

6-3.化学的反応性イオンエッチング

 この時,ラジカルフラックスとイオンフラックスの両フラックス比をとって,ラジカルイオン比の傾向をみれば,典型的にはイオンのみの状態からラジカルイオン比が上がるほど,エッチング反応収率が増加する.しかしながら,一つのイオンの効果は限定的であるため,ラジカルイオン比を上げていくと,ある限界値に漸近するように飽和する.すなわち,典型的な範囲では,ラジカルイオン比の増大によって,イオンの照射エネルギーの増加によってエッチング収率を高めることができる.同時に,マスクのエッチング量は低くなければならないことや,エッチング後の表面への損傷の残留なども考慮にいれて,最適な条件は限定されることが通常である.このようなエッチング例には,SiのCl系でのエッチングが該当する.

 次に,ラジカルは保護膜を形成し,イオンの入射エネルギーに対しても,低い場合には堆積を生じ,高い場合にのみエッチングを生じるような反応を考える.この場合,基板にバイアスを掛けて,イオンのエネルギーを変えることで,ある閾値エネルギーを超えるところから堆積を生じていたモードからエッチングするモードに移行する.ただし,材料の選択比を得ることができ,堆積する保護膜が存在するために,この保護膜の厚さを制御する.このような状況では,保護膜が厚くなると,その下地に反応表面が存在するので,保護膜を通過するような高いエネルギーをもってイオンを入射しなければならない.この傾向は,保護膜の厚さに指数関数的に影響を受けることが多い.そこで,保護膜を除去するような効果を加えてバランスを制御することもある.このようなエッチング例には,SiO2のフルオロカーボン系プラズマのエッチングが該当する.基板バイアスの依存性を調べると,バイアスが数100Vを超えて,相当高いエネルギーのイオンが照射されないとエッチングが進行しないが,その閾値エネルギー付近では急激なモード変化と,直ぐに高いエッチング収率が得られる [8].高アスペクト比のホール内にフルオロカーボンの堆積効果を得たいが,孔の入口近くの部分やマスクでは,その堆積を抑制したい場合には,酸素を多く添加して,堆積とエッチングのバランスを制御して,高アスペクト比のホールの形状制御を行う必要がある.

7.容器内のラジカル輸送とその付着・反応

 ラジカルの輸送は,熱速度での拡散現象である.低圧のプラズマ反応容器では,比較的プラズマは空間内に均一に生成できるので,容器内のラジカル生成量は均一だとすると,反応容器壁の表面では付着と反射があるため,まとめて表面損失確率というパラメータを導入する.この確率が1の場合は,完全反射であり,0の場合は完全吸収を表す.この表面損失確率を導入する壁の境界条件で,容器内の拡散を考える.例えば,容器壁でラジカルが完全失活する場合には,容器壁でのラジカル濃度は0であり,濃度勾配に応じて拡散によって,表面にラジカルが輸送される.

 ガスは常に導入され,排気されているので,圧力域に応じて,ガスの流体としての流れが無視できない場合もある.これは,各容器と条件に応じて,流れ場を解かなければならない.

 微細構造内にもラジカルは侵入し,その内部を輸送していく.閉鎖末端をもつ微細細管へのガス拡散の系であり,壁に付着し,再脱離を繰り返しながら,構造内の密度分布が生じる.このことは,微細構造底部で発生する反応生成物の微細構造外への排出にも同様に適用される.つまり,密度差による拡散での流れとなっており,構造内壁への付着確率が低い生成物であることが,高アスペクト比の構造内に供給される条件となっている.微細構造の大きさが小さくなると,入口から入ってくるフラックスが減少し,それに対して微細構造の深さ方向へ輸送されなければならないため,アスペクト比分の時間遅れをもって,微細構造内底部での反応が生じる.この遅れは,深さの二乗で効いてくる.

 もう少し詳細を説明すれば,表面の反応は入射を1に規格化した時,表面に吸着する確率をαとすると,1-αが反射確率となっている.吸着した成分のうち,表面に滞在し,表面拡散などもしながら,堆積物になるなどの反応する確率をβとすると1-α―βが表面反応確率sである.(図9)実際,表面近傍では濃度勾配で表面側に向かう成分と,反射して逆方向にプラズマ側に戻る成分があり,それらは表面反応確率s分の差をもっている.これは級数で表すことができ,正味の表面側に向かう成分は2s÷(2-s)倍になっている.拡散という現象を考えると,壁に向かって空間的に移動することが,時間的に密度の減少を生じ,逆に見れば,時間的な密度の減少によって,空間内の分布が決まっていくので,それらを一般化すれば,反応容器の内壁表面積と容器堆積の比で反応速度が決まっている.更に,表面の付着や反応には,物理吸着をはじめ,化学吸着や脱離,表面反応を含んでいることにも注意しなければならない.

 要約すれば,この節ではラジカルとイオンの相乗効果を狙って,微細構造底部での反応を促進する高アスペクト比エッチングを目指す場合には,ラジカルの構造内輸送についても,また生成脱離物の排出についても,構造内壁への付着挙動を伴った,熱運動に基づく,拡散輸送を考慮しなければならないということである.このように述べると,電荷中性の粒子は輸送の効率が非常にわるいことがわかる.イオンの形でエネルギーをもって方向性で輸送できれば,それに越したことはない.むしろ,拡散で輸送されている限り,到達時間を無視すれば,微細構造内の底部に届かないことはない,したがって,その意味で反応種が枯渇することが,アスペクト比の加工限界を決めるものでないこともわかる.サイクルエッチングの方法で,十分ガスが拡散する温度で反応させれば,アスペクト比にして200は問題ない.

8.イオンシース

 前述,プラズマと接した表面近傍には,イオンシースが発生し,表面が負の電位をもつことを説明している.この点について,もう少し詳細な説明を加える.

 まず,プラズマを生成するために電力を印加して,プラズマ内の電子にエネルギーを与えて,プラズマから損失する電子に相応する電子を電離によって生成させる必要がある.つまり,プラズマの維持条件は,プラズマ生成とプラズマの損失がバランスを取ったときに成立する [9].そして,イオンシースの最初の効果は,プラズマに面する電極に高周波を印加すると,シースに発生している電界が変調され,そのシースの電子障壁の移動が電子を加速し,統計的に電子の加熱を生じる.この現象は,電子障壁の移動が電子を加速しているので,無衝突加熱と呼ばれ,この現象の最初の解析者の名を取ってフェルミ統計加熱とも呼ばれる.一方で,電子を加速して,ガスに衝突させて電離を生じる場合には,衝突加熱ないし抵抗加熱と呼ばれる.

 統計加熱が生じる条件は,圧力が低く,抵抗加熱の効果が近い時に成立するが,その原理から電位障壁の移動は,励起電力の周波数に依存していることから,励起周波数の二乗に比例して電子密度が増加する.したがって,通常の13MHzに比べ,3倍の40MHz,5倍近い60MHzを使うと,それぞれ9倍,25倍の電子密度が得られる.この励起周波数を上げた時,プラズマ密度が上がり,プラズマの抵抗は下がり,シース容量も下がることから,シースの電圧が下がることになる.

 被加工ウェハの設置する電極に基板バイアスとなる電力を合わせて印加する.プラズマが存在することを前提で,基板バイアスを掛けるとウェハ表面のシースが変調され,入射するイオンのエネルギーを変調することができる.このとき,シースの厚さがあり,イオンの速度が決まると,シースを通過することのできる時間が求められる.この時間と,基板バイアスの周期によって,イオンの加速される様子は変わってくる.イオン通過時間に比べバイアス周期が十分長ければ,周期内の各位相でイオンは電界加速を受け,入射エネルギーが決まるので,もし正弦波のバイアスを掛けると二項分布をもつイオンエネルギー分布となる.(図10)一方で,バイアス周期が短いと,シース通過中にイオンは加速減速を受けるので,平均したオフセットバイアス分のエネルギー分布をもつことになる.

 また,高電圧が掛かったシースでは,イオン電流は空間電荷制限を受けるため,電圧の電荷に応じてシースの厚さが厚くなる.この結果は,イオンのシース通過時間を大きくするので,電圧を上げるほど,基板バイアスの周波数は低いほど,大きなエネルギーをもつイオンを得やすい.

 シンプルな非対称平行平板電極をもつ容量性結合プラズマで,電極前面にできるイオンシースのもつ電気容量で印加電圧が分割される.反応容器壁を接地していることから接地電極面積が大きくなるため,小さい面積をもつ電極側に高電圧が発生する.この電位を電気的なキャパシタンス比で決まっていて,自己発生バイアス(セルフバイアス)とよく呼ばれる.最近の装置では,反応容器壁は絶縁処理を施していることや,プラズマに投入する電力源が多周波化しているため,別の観点で発生バイアスを制御している形となっている.つまり,電気的にバイアスは変えられるので,電極面積は大きくなり,バイアスのために低周波の電源を周波数フィルターを介して接続する形となっている.

 フラッシュメモリの3D-NANDの量産がはじめって以来,バイアスの電源の電力は上昇の一途を辿っている.高いエネルギーを印加するほど,イオンの角度分布が狭まるからである.

 イオンの角度分布は,シース中で加速される基板垂直方向の速度分布の分散によって決まってくる.もともとのイオンがもつ速度分布の分散は熱運動で決まるので,それらの比が角度分布の幅を決めている.電位が数keVの時に熱運動との比で±2°程度になる.ウェハの周囲などでは,境界の影響でイオン入射の角度分布の中心がずれていることもある.シースの厚さは,電子密度に依存するので,電子密度の分布を均一にすると共に,高周波の電力が定在波の影響など無く,均一に掛かることも重要な要素となっている.

9.プラズマ中のイオン・ラジカルの生成過程

9-1.エッチャントが生まれる仕組み~電子衝突反応

 プラズマ中の電子は原料ガスとの衝突によって,イオンやラジカルを生成する.どの程度のエネルギーで照射すると,どのような反応が起きるかは,反応断面積の電子速度(エネルギー)依存性として調べられている.この事実は,調べられていないガスの断面積データは無いということでもある.そのため,未知のガス分子のデータについては,近い分子構造をもつガスから類推したりしているのが現状である.それでも大事なパラメータは,反応の閾値エネルギーである.電離や解離を起こす為には,分子は電離状態のエネルギーに電子のエネルギーを受けて遷移すると考えれば良い.そのため,量子化学計算で,遷移状態のエネルギーが求められれば,電子衝突反応に関するデータの予測が可能になるとも考えられる.

 電子衝突反応について,個々の反応が生じる現象は,対象とするプラズマ内の電子の速度分布と反応の断面積との積の統計平均によって決められる [8].実際には,反応によって電子速度分布も変わるため,これらの関係式としてボルツマン方程式を満たすように決まるはずである.すなわち,プラズマ中の電子速度分布関数が決められれば,これはマックスウェル分布を仮定すれば電子温度とも呼べる値で,反応速度断面積との関係から反応速度係数(反応レート)を示すことができる.見通しの良い考え方は,<>を平均とし,電子の速度依存の反応断面積σ(v)と電子の速度分布関数f(v)とするとき,<σv>がレートを決めている.したがって,σと電子の速度分布関数がわかれば良い.そして,対象とするすべてのレートが決められるとすれば,レート方程式を解くことによって,定常に達した時の各活性種の密度を求めることが原理的にできる.実際には,単純化したモデルでしか解かれていないし,現実を再現することはなかなか難しい.

 高アスペクト比エッチングに適した,ラジカルとイオンの組成になるような条件をプラズマから決められることが望ましい.しかしながら,実際にはプラズマの基本的なところから条件を変えることは難しいため,バイアスの制御などが行われる.

9-2.エッチャントの生成の制御~ガス分子デザイン

 前節で述べたように,所望のラジカルやイオン,また思いがけない効果をもつガス分子をつかってプロセスを構築することは効果的である.そのためには,ガス分子をデザインするという考えに達する.すなわち,所望のイオン種を発生しやすい分子構造をもったガスケミストリを使うことが望ましい.例えば,シリコン窒化膜のエッチングではハイドロフルオロカーボンがエッチング速度を上げて,材料選択比を得るためには望ましい.そこで,CHF3,CH2F2,CH3Fなどが使われる[11].そのガスが解離するとF原子を発生したりするので,HxF(3-x)C-CHyF(3-y)を使うことも提案されている [12].これは,炭素原子二つを含むハイドロフルオロエタンの化合物であるが,C-C結合がもっとも結合エネルギーが低いために,この部分が開烈したフラグメント種を与えやすい為である.さらに,これらのガスの水素とフッ素の原子数の炭素原子数に対する比率を変えたい場合には,炭素が3つや4つ含むガスを用いることが有効である.

 他にも,異種元素の結合を分子内に導入することも一例であるが,ビニルエーテル分子CF3OC=CF2では,異種原子の結合部が解離しやすいため,この場合CF3を遊離しやすく,エッチングレートを上げることに有効性が示されている [12].エッチングへの要求はレートだけではないため,プロセス設計の可能性を広げるという意味で,解決策になると言うわけではない.

10.チャージング現象

10-1.パルス放電と負イオン

 これまでイオンの表面反応の重要性を述べてきた.微細構造になると,シースで加速されているイオンは奥まで入ることができるが,加速されていない電子は熱速度で表面近傍にトラップされるので,電気絶縁性の高い膜に微細加工している場合には,電荷蓄積によって,イオンが減速したり,軌道を変える現象が発生する.このことは電子遮蔽(電子シェーディング)効果とも言い [14],このようなことを総じてチャージング現象と呼ばれる.これを緩和するためには,電子を高エネルギーで微細構造内にまで輸送したり,負イオンで中和したりしなければならない.

 チャージングの解決を目的として,パルス放電が良く使用される.プラズマが点灯している間は,負の電荷をもつ電子と正の電荷をもつ正イオンがプラズマを構成しており,イオンシースによって正イオンのみが,シースの電界によって加速されて表面に入射している.一旦,プラズマを消灯すると,電子のエネルギーは緩和して,電子がガスに付着する電子付着反応が優勢になる.特に,ハロゲンなどの負性のガスでは,電子付着反応が占める割合が大きい.このようにして負イオンが生成されることで,オフ時間中は,電子が消失し,正イオンと負イオンができ,基板に正を掛けると負イオンでチャージングを緩和したり,正イオンが連続照射されないために,絶縁緩和の時間を稼ぐことができる.すなわち,プラズマは消えてしまうのであるが,数μs程度は負イオンを表面に照射することができる.ここで,正イオンと負イオンで構成されるプラズマは,正負の電荷をもつ粒子の質量に,それほど差がないため,ほとんどシースができないため,プラズマを挟む電極間の電界によって,バルク中のイオンが電界加速される [15].

 我々の調べた例では,パルス放電のオフ時にDCのバイアスを掛けることで,イオンが,その符号に応じて反対方向に移動し,イオンとガスの衝突反応によるイオン化や解離の現象を生じると考えている [15].そのため,パルス放電のオフ時に効率的に,微細構造内にチャージ緩和をする負イオンを輸送し,さらに帯電表面の緩和を生じていると考えている.

 他にも,例えば,ゲートの加工では,絶縁膜の上にゲートがあるために,開口の違いによって,電位がオープンエリア側に向いて表面方向に発生するため,ノッチングなどの形状異常が発生する.電気絶縁されているパターンを加工する時には,このチャージング現象の影響を受けるので,通常はパターンレイアウトを作製するデザインルールを設けて,デバイス側に影響を出さないようにしている.

11.クライオ(低温)エッチング

 プロセス中の基板を-50℃以下ほどに冷やしてエッチングする時にクライオエッチングと呼ぶことが多い.エッチングの反応について,繰り返しとなるが,微細構造内のイオンの輸送を制御できれば,エッチフロントではイオン表面反応が支配的で,異方性エッチングが実現する.そのため,一つの解決策は,側壁でラジカルの自発的なエッチング反応を抑制するため,極低温にしてイオンによるエッチングをする方法が提案された.最初の報告は1980年代に遡ることができ,Siのエッチングの例である [16].1992年には大岩らのSiO2にも例があり[17],他の観点で,ラジカルがエッチフロントで吸着により,実効的に供給量が高まると期待できる.そのため,現在では再び,高アスペクト比エッチングを行うために,表面により多くのエッチャントを吸着させることを狙って検討が進められている.

 シリコンのエッチングでフッ素原子が反応する場合,SiF4を反応生成物にするので,自発的に反応が進行する.これを防ぐために低温が無視できるところまで低温にする.一方で,例えば,シリコン酸化膜では,イオンが照射され,Si-O結合が切断される方が,エネルギーが必要であるので,表面のフッ化を進めた方がエッチングレートを高くする.とても複雑であるので,簡単に述べられないのであるが,基礎的な考え方としては,フッ化などのエッチングの前駆体が表面反応層に形成されたところでイオン照射を行い,エッチング反応を得る場合にはラジカルの吸着を上げることが効果的に働く.

12.高アスペクト比エッチングを実現するためには

12-1.微細構造(孔や溝,ピラーやフィン)の側壁と底部の反応

 これまでに述べてきたことを元に,改めて微細構造の側壁と底部で起きる反応を考えながら,加工形状の制御という観点で整理してみたい.

 プラズマからイオンシースを介して,正イオンが表面に照射する際,マスクを影にして,マスク開口している部分に到達する.そのことで,イオン表面反応を生じて,イオン照射面でエッチングの促進によって,表面垂直のイオン入射方向に異方的にエッチングが進行する.その経過によって,加工形状には側部,側壁が顕れるが,その側壁面ではイオンがイオンの入射角度分布の成分で斜入射する.ほとんどは,側壁表面に表面すれすれの斜入射となることから,電荷中性化などの反応だけで,エッチング反応に促進効果は得られない.ただし,一度反射して方向の変わった場合には,角度が大きくなるため,その反射粒子のもつエネルギーによっては,側壁部でのエッチング促進効果は無視できない.特に,マスク直下の箇所では,マスクで反射してくる粒子に曝されることで,間口が広がるボーイングを生じる.それを抑制するために,側壁に保護膜を形成することが効果的であるが,保護膜が厚くなるすぎると,今度は間口を狭めてしまうために,ハングやテーパー,さらにはエッチストップとなってしまう.そのような複雑な反応が重なる中で,神業的な調整をして,高アスペクト比エッチングは実現している.

12-2.微細構造内の活性種の輸送と付着反応

 前節でイオン照射の有無により,微細加工の側壁と底部の保護膜形成ならびにエッチング反応のバランスの調整をしていると説明した.保護膜の形成,またラジカルのエッチング促進効果,反応層の反応前駆体形成などの,これまでに述べてきた効果は,活性種の輸送と付着の反応が影響する.すなわち,微細構造のアスペクト比にも依存して,微細構造内の輸送の現象を見なければならない.

 ラジカルの輸送は,ランダムに間口に入射する粒子に対して,深さhが増すに従い,底部bに届く粒子フラックスは低下する.これはシャドーイング効果と呼ばれ,円筒に近似した時に,間口半径rに対して深さhの比をアスペクト比A(=h/r)としたとき,入射する粒子の立体角はatan(A)に狭まる.そのため,入射する粒子フラックスを積分により求める時,アスペクト比に対して底部に届くフラックスは減少する.詳細は割愛し,単純シャドーイング効果であればAに逆比例,円筒仮定した管を拡散するのであればAの二乗に逆比例に近くなる.ただし,単位深さ辺りに濃度が一定で低下する状況なら,アスペクト比に指数関数的に現象が見られる.実際のエッチングレートの低下が,アスペクト比依存を示すが,イオンか,ラジカルか,反応生成物か,支配的な要因を導き出すのは容易ではない,ただし,これらの考え方は,反応を律速している原因を推察するのに重要である.

 さらに具体的な状況では,付着確率の高いラジカルは間口近くに付着するので,高アスペクト比になっていくと,内部に輸送がされにくい.一方,付着確率の低いラジカルは,付着しにくいため,濃度が高くても表面に濃度が足りないので,反応促進の効果が薄れてしまう.複数種のラジカルを反応に関与させることで,エッチング開始のアスペクト比からエッチングが進んで高いアスペクト比をもつときにも,エッチフロントで最適な反応が導かれるように調整されている.

 今後は,試行錯誤による最適化では効率がわるいこと,また必ずしも解に至るとは言えないので,原理を探究し,計測に基づく定量的な理解を進め,理論的な最適解を導く開発が必要であろう.

13.計測と計算,そして理論

 プラズマプロセスを制御する上で,系が複雑なため,理論的にシミュレーションした結果が現実を反映するとは限らない.そのためにも,その場実時間の計測を行い,実際の状態を分析することが,理解において重要となっている.

 1989年にCoburnとWinterが報告し,それに引き続き1992年にGattschoが示した考え方を紹介する [18,19].前述したサイクルエッチングと反応性イオンエッチングのいずれにおいても,ラジカルとイオンが微細構造の底部の加工面(エッチフロント)に届くまでの過程を考慮しなければならない.そして、ラジカルが輸送され,吸着した面にイオンが照射されることで,反応性イオンによる相乗効果が得られる.それを前提に,微細構造を輸送されエッチフロントに到達する粒子の透過確率Kと,到達面での付着確率Sを導入すると,微細構造の間口(h)とエッチフロント(b)のフラックス(Γ)はΓh-(1-K) Γh-K(1-S) Γb=SΓbの関係を満たす.そのため,エッチフロントのフラックスの比は,K/(K+S-KS)倍になる.他方,イオンについてはイオンの入射角度分布をエッチフロントから間口を視る立体角で三次元に積分したフラックスと考えられる.イオンとラジカルに相乗効果があることから,それらの比をもつパラメータも導入し,ラジカルのフラックス(Γ)とその付着確率(S)との積と,イオンエネルギー(Eion)依存の反応をEionに比例と単純仮定して,イオンのフラックス(Γi)とエネルギーEionの積との相乗効果係数(η)を導入する.このイオン対ラジカル比は間口の絶対的な大きさに関係する.あるアスペクト比で,ラジカルはシャドーイングによりフラックス変化を受けているので,このηは間口が小さいほど上がり,高イオン条件となるのが通常である.このことをマイクロローディングとも言う.ラジカルの挙動に応じて,ηが低ければ,ラジカルの保護効果や堆積が進み,逆に高くなると相乗的なエッチングに転じ,再びラジカルの供給律速となるであろう.これらのパラメータを考えながら,微細構造を削っていく過程でアスペクト比が高く上がっていく時の反応過程を理解することになる.(図11)割愛するが,この時,温度の影響も大きい.

 サイクルエッチングでの具体例を紹介する.C4F8とSF6の交互プロセスによるSiの深掘り(Deep etching)では,デポガスのプラズマで保護膜を形成する過程は,デボもフッ素系のSiエッチングのプレカーサの何れも,シャドーイングの輸送の効果で,アスペクト比の増加に伴いエッチング速度が低下する.このとき,デポした保護膜の除去では,デポ膜の厚さとラジカルの相乗効果がイオン照射時に影響するため,そのバランスが崩れたところで,突如エッチング停止する.(図12)そのため,デポとエッチの相反するバランスの影響を受けないプロセスが望ましく,イオン照射の有無だけでデポとエッチが変調できることが理想である.それでもシャドーイングの効果は顕れるので,サイクルの時間の調整が必要である.しかしながら,サイクルの時間を長くすれば,プロセスの時間が長くなり,また他にも間口の大きさの違うパターンを同時に加工作製する場合のアスペクト比依存エッチング(ARDEと呼ぶ)への影響なども考えなければならないために,一概に解決策を決められるものではなく,その解決は簡単ではない.

 エッチングによって凸や凹の微細構造を作製する時の側壁の反応を制御し,形状を決める要素は何か.やはり,これまで述べてきたように,イオンとチャージング現象,ラジカル,反応面の温度などが影響する.特に,側壁では表面垂直に入射するイオンからは,斜入射することになり,その斜入射イオンから電荷交換して発生する高速中性粒子も考えなければならない.また,エッチフロントで発生する反応生成物は構造内から排出される際,ラジカルで説明したことと同様に,拡散によって,側壁に付着を繰り返しているはずである. Deep etchingを,SF6とO2の混合プラズマで行う場合には,シリコンフッ化酸化物(SiOF)が,側壁の反応で大きく寄与していることが分かっている.すなわち,側壁を保護するために反応生成物を付着させたり,形状制御を行う観点で反応生成物は付着させないなど,高度に制御を行う上では考慮に入れる必要がある.

14.おわりに 

 高アスペクト比エッチングについて説明をしてきた.エッチングの原理から,プラズマで生成するイオンとラジカルのエッチング反応に与える効果についても説明した.特に,高アスペクト比構造をつくるためのエッチングでは,エッチング後半でアスペクト比が時々刻々増加に変化していく最中の活性種の輸送と,その反応寄与を理解して,制御しなければならない複雑な系である.(図13)

 他の観点でも,サイクルプロセスは高圧の方が,反応活性種量が上がるので効率的になる.一方,反応性イオンエッチングの観点では,低圧でなければ,効率的にイオンを生成して,輸送することができない.これらからみても,装置上の制約を問わずに,最適な反応の系の圧力を考えることも難しい.むしろ,プロセスの観点から至適なプロセス装置を開発するという関係が暗に生まれている.今後は,さらに電力消費や資源消費の観点も入れて,高性能なプロセス装置の開発が望まれるであろう.

 高アスペクト比エッチングには,ウェットプロセスでもメタルアシスト化学エッチング(MACE)という方法もあり,金属を触媒に被加工物を酸化させながら,溶液に溶解するということが可能である,窒化ガリウムでは光照射によって発生する正孔によって,酸化されるので,MACE同様に光照射面でのみエッチングが進行する.これは光電気化学エッチング等とも呼ばれている. ウェットでは密度が高い系であるため,活性種の輸送の濃度勾配が影響を受けにくい.ドライの系でも,これらと同様に材料選択比を設けたり,活性種の輸送を工夫したり,何かの反応に律速されにくいというような反応場を用意することは可能であろう.今後,さまざまな方法が出現すると思われ,それに期待している.

謝辞

 本稿をまとめるにあたり,情報提供などでドライプロセス国際シンポジウム委員,名古屋大学 堀勝,関根誠,林俊雄,菅井秀郎,豊田浩孝,大野哲靖,同低温プラズマ科学研究センター各位,同石川・田中研究室各位,東京エレクトロン宮城 大矢欣伸,日立ハイテクノロジー 伊澤勝,根岸伸幸,篠田和典,キオクシア 宮島秀史,大岩徳久,酒井伊都子,大村光広,佐々木俊行,福水裕之,ソニーセミコンダクターソリューションズ 深沢正永,スクリーンホールディング 谷出敦史らに感謝する.

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図1 (上)パターン転写における異方性エッチングの重要性 (下)プレーナートランジスタからフィン型トランジスタに発展
図2 ダブルパターニングの方法(左上から)
図3 DRAMの回路と構造 シリンダー型やピラー型のキャパシタ
図4 3D-NANDフラッシュメモリ パンチ・アンド・プラグにより作製
図5 ドライエッチングの原理
図6 サイクルエッチングによる方法
図7 スパッタリング現象の特徴
図8 フルオロカーボンイオン種の違いによる入射エネルギーに依存する反応の違い
図9 表面吸着確率,反応確率
図10 イオンシースにバイアスを掛けたときのイオンエネルギー分布 
図11 高アスペクト比エッチングでの反応過程
図12 プラズマエッチング
図13 プラズマエッチング反応を理解するための階層


Last-modified: 2024-06-17 (月) 08:28:29