SiO2Etching32

SiO2Etch

2.9 電子スピン共鳴法による欠陥観察

 電子スピン共鳴法について多くの解説がある[31–42]. ここでは観察対象となる欠陥についての背景を述べる.

2.9.1 Si/SiO2 系での常磁性欠陥

 Si/SiO2 系での常磁性欠陥についてはLenahan [43] がレビューしている.

E’γ センタ

 はじめに結晶SiO2 の常磁性欠陥について説明する.Weeks によって,中性子を照射したαクォーツ(SiO2)に常磁性欠陥が発見され,この信号を一つの不対電子からの信号と同定した[44]. 他に,Silsbee による報告もある[45].この欠陥に,E センタと名付けた.その意はE は電子を意味し,電荷が一つなので をつけたということである.E'1センタは,Feigl,Fowler,Yip の酸素空孔(FFY)モデルが受け入れられている.すなわち正に帯電した酸素イオン(O−)空孔が形成され,ほぼ平面上のSiO3 と不対電子もつ正四面体構造のSiO3 である.O− イオンの空孔ができ,SiO3 が正四面体構造をもって,不対電子を有する構造である[46, 47]. また,このE1 センタは,29Si の超微細構造定数が∼420G と報告された[44].他に,E'4 中心は中性O の空孔ができ,水素が終端したような構造である[48]. シリコンリッチサイト,過酸化ラジカル,非架橋酸素センタ(NBOC; Non-bonding oxygen centers),水素関連トラップが報告されている.NBOC についてはGriscom がg1=2.078,g2=2.0102,g3=2.0001,超微細構造定数A1=A2=14.4G と報告されている[49]. ちなみに,このセンタは室温で観測されない.過酸化ラジカル(Si-O-O-Si)についてはGriscom がg1 がA1=3.6G と,g2=A2=4.2Gを報告されている[49].Erbetta らやUchino らによって,アモルファスSiO2 の酸素空孔のSi-Si 結合と過酸化結合について量子化学計算が行われている[50–52].Pasquarllo のグループが第一原理の量子化学計算をおこない,·Si3−xOx のx の増加により超微細構造定数が増加する結果を報告している[53].

アモルファスのSiO2 には,Griscom によって,ガンマ線照射して溶融石英に観察されている.信号は結晶のE1 センタに類似であり,ガンマ線照射して観察されたことからEγセンタと名付けられた.このE'γ センタのg 値は,g1=2.0018,g2=2.0006,g3=2.0003 である.アモルファスのSiO2 のEγ も29Si の超微細構造定数∼ 420G をもち,光学吸収が∼5.8 eV と知られている[51]. この欠陥は,結晶でのE1 中心が29Si の超微細構造定数の∼ 40mT と近いことからFFY モデルによる説明が受け入れられている.また,酸素空孔の歪みSi-Si 結合が光イオン化されEγ にあるとも説明される[54].

Lenahan らはアモルファスSiO2 薄膜にγ線を照射するとE センタがg 値2.0004 に検出され膜中固定電荷量と相関があると報告した[55]. D2 ランプの10eV 以上の真空紫外光を照射してE センタが生成し,その後ゲートに電圧を掛けて電子注入すると信号強度が低減すると報告した[56]. インパクトイオン化で生成したホール注入によって100nm以上の酸化膜にはE' センタが生成したが,23nm の膜には生成していない.またこの時のE センタはg 値2.0006 と報告している[57]. CVD 堆積したSiO2 に,バイアス印加中に5.5eV の紫外光を照射して電子注入を行うとE センタが生成し,注入量に対して指数関数的に飽和すると報告した.この時のg 値は2.0005 であった[58]. γ線を照射すると(100) 面のPb 中心を生成するとも報告している[59].しかしながら,MOS 構造の電気特性でみたホールトラップとEγ センタの測定結果に必ずしも相関が見られるわけではない.

Devine らによる248nm のレーザー光を300mJ/cm2 で照射して,∼2KJ/cm2 ドーズすると密度増加すると報告した.この時,E' センタは∼ 1017cm−3 子か検出されないため,小リングサイズのSiO2 が形成され微量のcoesite も存在すると報告した[60].

E’δ センタ

 アモルファスのSiO2 バルク試料にx 線やガンマ線照射後にEδ センタの形成が見られたことがGriscom やTohmon らによって報告された[61–63].薄膜でも報告されている[64–67].Zhang らがg1=2.0018,g2=g3=2.0021,29Si の超微細構造定数は100G であると報告している[68]. このセンタはスピンは1 で信号は3 本線である.

 Devine は紫外線(Kr プラズマ,10eV と10.6eV)を照射したSiO2 に形成されるE'γセンタの深さ方向分布を希フッ酸エッチングバック方法で報告した.100nm 深さまで1019cm−3 の密度で形成されている[69].

 Stesmans らはAr グロー放電中にSiO2 を設置すると表面10nm にE' センタが生成する.その密度は8×1019cm−3 になり,希釈フッ酸によるエッチバックによる深さ方向分布を報告した.プラズマ照射時間依存性では10s 以内に密度が飽和する.g 値が2.0020(g1=2.00168,g2=g3=2.00209)に異方性でEδ センタが見られ,Si4 にできた酸素空孔とアサインした[65]. 埋め込み酸化層をもつ基板でホール注入によりE'δ センタが生成すると報告した.29Si の超微細構造定数は100G である[70].EP センタは,Lenahan らが2.0019 [71],EP2 センタはg⊥=2.0045,g=2.0030 で10.2eV のVUV 光を照射して40nm の深さ領域に形成されると報告した[72].ここで,Eδ センタのモデルには非局在の不対電子のモデルがはじめ提案された.

 Griscom は四つのSi に共有される不対電子のモデルを提案している[61]. 5 つのSi の四つの等価なSi-Si に共有される5Si モデルも提案された[64, 65]. 最近では,2Si モデル,Si-Si のダイマーが提案され,量子計算の結果では2Si モデルの可能性が高くなった.また別々に報告されたEP とEδ は同じ欠陥であり,Zhang らの2つのSi の不対電子モデルが受け入れられている[63].Chavez らによる量子計算結果から,Si が2 原子で構成されている以外は,正に帯電している描像などE'γ センタと同様であり,H2 とも同様の超微細構造定数をもつと考えられている[73].

Pb センタ

 Si とSiO2 の界面の常磁性中心は,東芝のNishi らによって報告された[74,75]. Pa とPc と名付けられた信号は不純物によるものとされ,界面の信号はPb センタとわかっている.このPb センタの構造モデルは,Caplan によって界面に位置する三配位Si と同定され,受け入れられている[68, 76].MOS 界面でPb センタは,電子トラップ,ホールトラップとしても働くと提案された.MOS 界面ではギャップ中の準位と考えられた[56].このPb センタを水素中で熱処理すると終端されることが知られているが,この点に関してBrower やStesmans によって詳細に調べられている[77–79].Cook とWhite はPbセンタとなる三配位Si の量子計算を行い超微細構造定数が実験値と一致したと報告した[80].29Si の超微細構造定数はA∥=167±3G,A⊥=107±4G と報告した[81].SiO2/Si(111) 界面のEX センタはg 値が2.00246 で半値幅1G の等方的な信号である.29Si の超微細構造定数は16.1G がStesmans によって報告されている[82].EH センタは,g 値が2.0025 で等方的な信号である.H の超微細構造定数は23.1G である[61, 65].

その他のE' センタ

 界面近傍のE'γ センタとしてhemi という意味でE'h センタと呼ばれる.これはE センタでありながら電荷の出し入れができるものと考えられている[83].この信号は電荷中性の時にESR アクティブである.X センタはHosono とWeeks によって報告され·SiO2 にアサインされている.230Gの分裂幅をもっている[84].E'γ は419G の分裂幅をもっており,Pb 中心では100-127Gであり,この中間的な値であることが根拠として報告されている[81].S 中心はGriscom によって報告され,その後Steasman によって調べられた.279±12Gで二つに分裂する等方的な信号である.さらに,162 ± 5G の弱い分裂も重なっていることが報告されている[85].このS センタのオリジンはX 中心と同じとされている[86].量子化学計算の結果から·SiSiO2 がX センタとS センタに同定される.この延長で,·SiSi2O の存在も予言されY センタとして提案されている[86].Vitko はガンマ線照射した溶融石英のバルクにH の超微細構造72G をもつ2本線を観察した[87]. 薄膜では菅野のグループのTriplett らはE センタに74G の2本線を報告した[88, 89].Conley によって10.4G の2本線も報告されている[90, 91].

2.9.2 アモルファスSi,C,SiC のESR

 アモルファスSi のレビューはSolomon が報告している[94].Brodsky らは1968 年にa-Si のESR 結果を報告している.この時,スピン密度は1020cm−3 と報告した[95, 96].g 値が2.0055,半値幅は室温で7.5G である.低温(77K 以下)で4.7G になる.他に,a-Ge とa-SiC の77K での測定結果を報告をしており,それぞれ2.021 の39G,2.003 の6G と報告している.Thomas らは真空蒸着したa-Si を真空中で観察する手法を考案し,1978 年に真空蒸着したa-Si のESR 結果を報告している[97].円筒のロッドや石英基板に真空蒸着して真空中でESR を測定している.g 値は2.0055 で半値幅は∼5G である.堆積速度が遅い時にスピン密度は1019cm−3 になると報告した.半値幅が5G だった信号は大気暴露により8G になる.また,信号は107L の暴露で指数関数的に10% の信号減少が見られ,さらに続けて20% の減少まで観察されている.

a-C

 プロパンガスを使用してCVD 成膜したa-C 膜のスピン密度は∼1018cm−3 で,g 値は2.003 の半値幅が5G が報告されている[98].スパッタリング成膜したa-C のスピン密度は∼1020cm−3 が報告されている.g 値は2.0023~2.0035 で半値幅は4.5~10G である[99].Abel らがDLC(Diamond-like carbon)膜はスピン密度は2×1020cm−3 であり,50keV のC+ イオンを1017ドーズの照射するとスピン密度は8×1020cm−3 になると報告している[100].DLC では2.5×1020cm−3 のC-DB が観察され,さらにC+ イオンを30keV に加速して照射すると2.5 倍に増加すると報告している.また,Hoinkis らはa-C:H 膜に酸素の浸透で半値幅2.8G から13.1G に増加すると報告した.水素含有量の少ないa-C で半値幅が78~88Gと示している[101].a-C では1019cm−3~1021cm−3 の高スピン密度が報告されていた[101].Gerstner はアーク堆積したta-C(tetrahedrally bonded amorphous carbon)でg 値が2.0028 でスピン密度1020g−1~1021g−1,線幅が3.8~6.9G で変化すると報告した[102].Bardeleben らはDLC に1020cm−3 のC-DB が観察が観察されることを報告する.g 値は2.0030,半値幅は1.4G から9.9G までバイアスで変化して,2.1×1020cm−3 が報告されている[103].Shimizu らの計算からC-DB はg1=2.0023,g2=2.0028,g3=2.0032 と求められている[XXX].ダイアモンドではg 値が2.0027 の半値幅が2.6G である.a-SiC に関してスピン密度は3×1019cm−3 が報告されている[104]. g 値がSi リッチで2.005 からC リッチで2.002 に変化する.Zvanut のグループからSiC はg 値が2.0025~2.0029 の間になる[105].金沢大学の清水のグループのIshii らはスパッタ堆積したa-SiC はスピン密度が∼1020cm−3,組成に応じてg 値が2.0055 から2.0030 に変化する[106].その後,SiCの組成によるg 値のシフトを拡張ヒュッケル法でクラスター計算した結果を報告し,C組成が増えると2.0055 から2.0030 に変化すると報告した.10% のC で2.004 間でシフトして30% 以上ではほぼ2.0030 からコンスタントになる[107]. SiH4/CH4 ガスのCVD 成膜したa-SiC:H ではC 比率が60% 以上だとスピン密度が1019cm−3 後半と報告した[108].

伝導電子

 Wagoner は,伝導電子は室温でg∥=2.0026,g⊥=2.00495 のダイソンカーブを報告している[109]. g⊥ は温度依存性が大きい.Raven7000 というDBP((di-nbuthyl) phthalate) にカーボンブラックをフィラーにした材料のESR で半値幅が60G のもの観察結果が報告されている.酸素吸着が理由で60G であり,脱ガスすると線幅が通常の2G まで狭まると報告されている[110].これはフタレートからくる信号が,酸素吸着で60G になるという解釈が正しい.フェノールベースのカーボンファイバー(ACF; activated carbon fibers)のESR 信号はg 値2.002,半値幅40G,高温(473K)では50G になる.0.1kPa から10kPa の酸素で線幅がブロードニングして170G まで広くなる.酸素分圧に比例する.スピン密度は3×1019cm−3 とKobayashi らが報告している[111].カーボンナノホーンのESR でg 値2.0023 で半値幅2.5G,酸素暴露中は80G の信号が重畳する[112].共役ポリマーで酸素によるブロードニングが見られている.ポリアニリンは大気暴露しておくと線幅2G になる.真空引き後は0.8G である.酸素暴露を150Torr すると線幅は20G に増加して,放置時間と共に10G 程度まで減少する.導入酸素分圧に依存して線幅が変わることをHouze が報告している[113].


Last-modified: 2020-12-05 (土) 13:53:27